クロテン

クロテン（黒貂）について

クロテン（黒貂、Martes zibellina）は、ネコ目イタチ科に属する哺乳類で、日本では主に北海道に生息しているエゾクロテン（蝦夷黒貂、Martes zibellina brachyura）として知られています。この種は古くより高級毛皮を提供する動物として重用されており、歴史的に文化や人々の生活にも関連深い存在です。

分布

クロテンは、ロシアや中国、朝鮮半島、日本、そしてヨーロッパ東部に広く分布しています。日本では北海道にしか生息しておらず、特にエゾクロテンは近年の調査によってその生息範囲が把握されるようになりました。北部および中央部の森林地域での分布が確認されています。

形態

大陸に生息するクロテンは、平均して頭胴長が約50cm、尾の長さが17cm、体重は1.5kg程度です。その毛色は灰色から黒褐色に変化し、特徴として胸部にオレンジ色や褐色の斑点を持っていないことと、尾が短いことが挙げられます。対して、亜種のエゾクロテンは小型で、頭胴長が35〜40cm、尾の長さは12〜14cm、体重はおおよそ0.7〜1kgです。冬期は毛色がベージュに変わることが多く、この点でも大陸のものとは異なります。

生態

エゾクロテンは、森林地域や耕作地周辺に生息し、樹上での活動を好む一方で、地上を移動しながら小型の脊椎動物や昆虫、果実を捕食します。また、雪が積もる冬季には、雪と地表の隙間に入り込み、ノネズミなどの小動物を捕らえることもあります。時には自分より大きなユキウサギを捕食することもあります。

移入

日本には、クロテンと親しい種であるテン（Martes melampus）が1940年代に本州から北海道に移入されています。このため、エゾクロテンの生息地域の北部では、移入されたテンが影響を及ぼしている可能性があります。

人間との関係

クロテンは非常に古くからその高級な毛皮が需要とされ、特に平安時代には皇族や貴族の間で重宝されました。毛皮は中国東北部や渤海経由で輸入され、多くの文献にその存在が記録されています。例えば、『源氏物語』の『末摘花』には、若い女性がこの毛皮を纏っていたという記述があります。

また、清朝が成立した際には、中国での需要が高まり、交易品として江戸時代の日本でもアイヌを通じて輸出され、乱獲の危機を迎えることとなります。アイヌは毛皮を求めてさらに地域を拡大し、シベリア方面への進出が見られました。

シベリアでは、クロテンの毛皮が高級品としてヨーロッパにも輸出され、当時は毛皮の取引が盛んでした。ロシアでは毛皮40頭分を1単位とする流通があり、この数字がロシア語の「сорок」という独特な数詞の起源になったと考えられています。

日本のエゾクロテンについても、乱獲の影響で絶滅の危機に瀕しましたが、1920年には禁猟措置が取られ、保護活動が進められています。その毛皮は大陸産と比べると品質が劣るものとされ、一時期はほとんど見ることができなくなりました。現在でもその存在は文化的に重要なものとして認識されています。

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