クロニオス

ギリシア神話の世界には、「クロニオス」（古希: Κλονίος, ラテン語: Clonius）という名の人物が複数登場します。中でもよく知られているのは、古代ギリシアの叙事詩『イーリアス』などに描かれるトロイア戦争におけるギリシア側の武将です。

このトロイア戦争に参加したクロニオスは、ボイオーティア地方から遠征してきた一団の指導者の一人でした。彼の出自についてはいくつかの異なる伝承があります。一説には、彼はラクトレスとクレオブーレーの間に生まれた息子で、同じくトロイア戦争で戦うレーイトスと兄弟であったとされます。また別の説では、ボイオートスの子イトーノスの子であるアレゲノールの息子とされ、この場合はペーネレオース、レーイトス、プロトエーノール、アルケシラーオスといった他のボイオーティア勢の将たちと従兄弟の関係にあったとも伝えられています。さらに単純に、ペーネレオースやアルケシラーオスとは従兄弟であったという言及も見られます。

クロニオスは、ペーネレオース、レーイトス、プロトエーノール、アルケシラーオスといった面々と共に、ボイオーティアからの軍勢を率いました。伝えられるところによれば、彼が指揮した船団は9隻に及んだとされています。彼は他の武将たちと共に、トロイア軍との激しい戦いに身を投じました。

しかし、戦いの流れがギリシア軍にとって不利になった時、クロニオスは悲劇的な最期を迎えます。最高神ゼウスの命を受けた神アポローンが、恐ろしいアイギスの楯を用いてギリシア軍を混乱に陥れた隙を突かれました。この混乱の中、トロイア側の勇敢な武将であるアゲーノールの攻撃を受けて命を落としたのです。彼の死は、ボイオーティア勢、ひいてはギリシア軍全体にとって大きな損失となりました。

トロイア戦争で戦った武将の他にも、神話にはクロニオスという名前の人物が散見されます。以下に主な例を挙げます。

最高神ゼウスとニンフ、あるいは人間の女性とされるヒマリアの間に生まれた息子の一人。
カリュドーンの王オイネウスの娘ヒッポダメイアに求婚した多くの勇士の一人。
悲劇『テーバイ七将』に登場するテーバイ人の一人で、英雄テューデウスに討たれた人物。
トロイアの王プリアモスの多くの子息の中には、彼の妾腹の子として名が挙げられている資料もあります。
* トロイア陥落後、イタリアへ逃れた英雄アイネイアースの部下の中にも、同名の人物が複数存在したことが文献によって伝えられています。

このように、「クロニオス」という名前は、ギリシア神話の様々な場面、様々な人物に用いられており、特にトロイア戦争におけるボイオーティアの武将としての姿が、叙事詩を通じて後世に広く知られることとなりました。

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