クロロキン

クロロキン：抗マラリア薬からCOVID-19治療薬への期待と挫折

クロロキンは、マラリアの治療・予防に用いられる抗マラリア薬として知られています。1934年にドイツで合成されましたが、当初は強い毒性から実用化は見送られました。しかし、1943年にアメリカで独自に開発され、抗マラリア薬として広く使用されるようになりました。

効果と作用機序

クロロキンはマラリア原虫の増殖を阻害することで効果を発揮します。具体的には、原虫のヘム（ヘモグロビン分解産物）の重合を阻害し、毒性の高いヘモゾインの形成を妨げます。この作用により、原虫は自滅します。

近年では、クロロキンががん細胞のオートファジー（細胞の自食作用）を阻害し、がん細胞の増殖を抑える可能性が示唆されており、新たな治療法としての研究も進められています。M.D.アンダーソンがんセンターの研究では、休眠状態のがん細胞のオートファジーをクロロキンで遮断することで、再増殖が抑制されることが報告されています。

副作用とリスク

クロロキンは、強力な薬効を持つ一方で、深刻な副作用を引き起こす可能性があります。

急性毒性

クロロキンは強い心臓毒性を持ち、過剰摂取は致死的な結果を招く可能性があります。成人の致死量はリン酸クロロキンの場合2～3g、小児では0.5～1gと報告されています。マラリア治療における標準的な服用量と中毒域が近接しているため、注意深い投与が必要です。マラリア多発地域では、安価で入手しやすいため自殺手段として利用される事例も多く報告されています。

慢性毒性

クロロキンの長期服用による深刻な副作用として、クロロキン網膜症が知られています。これは眼底黄斑の障害を引き起こし、視力障害や失明に至ることもあります。この副作用は不可逆的であり、一度発症すると視覚障害は進行します。日本においても、1950年代から1960年代にかけて、クロロキン網膜症による多くの被害が発生し、大きな社会問題となりました。当時は、マラリア治療だけでなく、慢性腎炎やてんかんといった他の疾患にも効果があると誤って認識されていたため、その使用が拡大し、被害を拡大させた経緯があります。

製剤

クロロキンには様々な製剤があります。

リン酸クロロキン: 主に抗マラリア薬、抗アメーバ薬として使用されます。
ヒドロキシクロロキン硫酸塩: 全身性エリテマトーデスや皮膚エリテマトーデスの治療薬として使用が認められています。日本ではプラケニル錠として市販されています。
* その他の製剤: オロチン酸クロロキン、コンドロイチン硫酸クロロキンなど、様々な塩や複合体として製剤化されたものがあります。これらの製剤は、過去に慢性腎炎やリウマチ性関節炎などの治療に使用されていましたが、クロロキン網膜症の原因となったため、現在は使用が制限されています。

観賞魚用の白点虫病治療薬として使用される場合もあります。

COVID-19治療薬としての期待と現実

COVID-19パンデミック初期には、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンが新型コロナウイルスに対する有効性が期待されました。in vitro試験では一定の効果が示されましたが、臨床試験では有効性が確認されず、むしろ重篤な副作用のリスクが高いことが示されました。そのため、多くの国でCOVID-19治療薬としての使用は推奨されなくなりました。

まとめ

クロロキンはマラリア治療に有効な薬剤ですが、強い毒性と深刻な副作用のリスクを伴います。その効果とリスクを十分に理解した上で、適切な医師の指示のもとで使用することが重要です。COVID-19治療薬としての期待は裏切られましたが、がん治療など、他の分野での応用研究は継続されています。 薬剤を使用する際には、常に最新の医学情報を参照し、専門家の指導を受けることが大切です。

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