クローク・パーク

クローク・パークは、アイルランドの首都ダブリンにある、国内最大規模を誇るスタジアムです。アイルランド最大のスポーツ組織であるゲーリック体育協会（GAA）の主要スタジアムの一つであり、その本部もこの場所に置かれています。収容人数は国内で最も多く、ヨーロッパ全体を見てもその規模は有数です。

歴史と文化の中心

クローク・パークは単なるスポーツ施設ではなく、アイルランドの歴史と文化の舞台となってきました。GAAは、アイルランド固有のスポーツや文化を保護・振興することを目的として1884年に設立されました。クローク・パークはGAAの精神を体現する場として、建設当初からゲーリック・ゲームズ（ゲーリック・フットボール、ハーリング、カモギーなど）を中心に使用されてきました。

特に記憶されているのは、アイルランド独立戦争中の1920年11月21日に発生した「血の日曜日」事件です。この日、イギリス軍のブラック・アンド・タンズ部隊がスタジアムに発砲し、選手を含む14名の命が奪われました。現在スタジアム西側にある「ホーガン・スタンド」は、この犠牲者の一人である選手マイケル・ホーガンを追悼して名付けられたものです。また、アイルランド内戦終結後の混乱期には、ゲーリック・ゲームズが人々の心の傷を癒し、国民を鼓舞する役割を果たした場所でもあります。

ゲーリック・ゲームズの独占的な使用方針はGAAの強固な姿勢として捉えられがちですが、クローク・パークがアイルランドのナショナリズムやコミュニティにとって果たしてきた歴史的な役割を考慮することは重要です。

歴史的な出来事としては、1947年のオールアイルランド・フットボール・ファイナルが挙げられます。ジャガイモ飢饉から100周年にあたるこの年、決勝戦はクローク・パークではなく、アイルランド国外であるニューヨークで開催されました。これは、GAAが国外にいるアイルランド系の人々とのつながりを重視していたことを示す特別な事例です。

スタジアムの用途と議論

クローク・パークは原則として、ゲーリック・フットボール、ハーリングといったアイルランド固有のゲーリック・ゲームズのみを開催するという強い方針を維持してきました。しかし、例外的なケースとして、他の施設が使用できない場合に限り、異なるスポーツの開催が認められることもあります。例えば、ダブリンの主要なラグビー・サッカースタジアムであったランズダウン・ロードが改修工事（後のアビバ・スタジアム建設）に入った際、2007年から2010年までの期間、国際的なサッカーやラグビーの試合がクローク・パークで行われました。

特に2007年には、ラグビーのシックス・ネイションズでアイルランド代表とイングランド代表が対戦するという、クローク・パークにとって歴史的な一戦が開催されました。この試合では、イギリス国歌の演奏も行われましたが、大きな問題なく受け入れられました。試合は友好的な雰囲気の中で進み、アイルランド代表が勝利を収めました。

こうした代替開催を巡っては、国民的な議論も巻き起こりました。クローク・パークの維持管理には多額の公的資金が投入されており、公共の財産としての性格が強いことから、GAAが他競技（特にサッカーなど）の開催を拒否することは組織のエゴであり、国民的スポーツであるサッカーなどの利用を認めるべきだという意見も出されました。

スポーツイベント以外にも、クローク・パークは大規模なコンサート会場としても利用されています。U2、ボン・ジョヴィ、ウエストライフ、セリーヌ・ディオン、ワン・ダイレクションなど、国内外の著名なアーティストがここでパフォーマンスを行っています。

施設

1990年代以降、クローク・パークは大規模な増築工事を繰り返し、現代的な巨大スタジアムへと進化しました。現在もさらなる拡張やホテルの併設などが計画されています。

スタジアムのスタンドはいくつかのセクションに分かれており、それぞれ歴史的な名称が付けられています。

クーザック・スタンド (Cusack Stand): 東側に位置し、GAA創設者の一人であるマイケル・クーザックに由来します。
ザ・デヴィン・スタンド (The Davin Stand): 南側に位置し、同じくGAA創設者であるモーリス・デヴィンに因んでいます。かつては「カナル・エンド」と呼ばれていました。
ホーガン・スタンド (Hogan Stand): 西側に位置し、「血の日曜日」事件の犠牲者である選手マイケル・ホーガンに敬意を表して命名されました。
Hill 16 & Nally Terrace: 北側にある屋根無しの立ち見席エリアです。

スタジアムには、ゲーリック・ゲームズの歴史や文化を紹介するGAA博物館が併設されています。1998年にオープンしたこの博物館では、歴代の優勝カップやメダル、歴史的な展示品、映像資料などが展示されており、実際にハーリングのスティックでボールを打つ体験コーナーもあります。博物館に併設されたショップでは、各カウンティーチームのユニフォームやGAA関連グッズを購入できます。また、GAAの本部事務所もクローク・パーク内に置かれています。

クローク・パークは、アイルランドのスポーツ、文化、そして歴史にとって極めて重要な存在であり、その役割は現在も続いています。

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