クロード・フランソワ

クロード・アントワーヌ・マリー・フランソワ（Claude Antoine Marie François、1939年2月1日 - 1978年3月11日）は、フランスが生んだ伝説的なエンターテイナーです。シャンソン歌手として絶大な人気を誇ったほか、作詞・作曲、音楽プロデューサーとしても活躍し、「クロクロ」という愛称で親しまれました。特に1960年代から1970年代にかけて、彼はフランス国内で最も影響力のあるアーティストの一人でした。

彼の人生は、エジプトのイスマイリアで始まりました。フランス人の父とイタリア人の母のもとで育ち、幼い頃からドラムやヴァイオリンなど楽器に触れ、エジプトの音楽にも親しみました。こうした経験が、後の彼の音楽性に影響を与えたと言われています。1956年、スエズ運河の国有化を機に、一家はフランスのコート・ダジュール地方へ移住。彼はすぐにジャズ・アンサンブルや地元のクラブでドラマーとしての仕事を始めました。

1960年にパリへ移り、1962年にはエヴァリー・ブラザーズのカバー曲「ベル!ベル!ベル!」で歌手として成功を収めます。翌1963年にはパリのオリンピア劇場に初出演し、スターへの階段を駆け上がりました。彼のトレードマークであるダイナミックなステージを支えるため、1966年には女性ダンサーチーム「レ・クロデット」を結成。また、1967年には自身のレコード会社「フレッシュ (Fleche)」を設立し、ビジネス面でも手腕を発揮しました。

彼のキャリアで最も特筆すべきは、世界的な名曲「マイ・ウェイ」の原曲を生み出したことです。1967年、当時の恋人であった歌手フランス・ギャルとの破局を経験した後、彼はジャック・ルヴォー、ジル・ティボと共に「Comme d'Habitude」（いつものように）を作曲しました。この曲はフランス国内で人気を博しましたが、転機が訪れます。フランス滞在中にこの曲を聴いたカナダの歌手ポール・アンカが、全く新しい英語の歌詞を付けました。こうして生まれた「マイ・ウェイ」は、1969年にフランク・シナトラが歌い、世界中で記録的な大ヒットとなりました。その後もエルヴィス・プレスリーやシド・ヴィシャスなど、数多くのアーティストにカバーされ、時代を超えて愛されるスタンダードナンバーとなっています。

1970年代も彼の活動は精力的に続きました。1970年には自動車事故で顔に傷を負うアクシデントに見舞われましたが、創作意欲は衰えませんでした。彼は多くの英米のヒット曲をフランス語でカバーして紹介する一方、自身の楽曲「愛しているから、わが子よ」がエルヴィス・プレスリーによって「My Boy」としてカバーされるなど、国際的な交流もありました。1974年のアルバム「涙の電話」は200万枚以上のセールスを記録し、生涯最大の商業的成功を収めました。彼は全部で500曲以上の楽曲を残しています。

しかし、1978年3月11日、わずか39歳で突然の訃報が世界に衝撃を与えました。パリのアパートの浴室で、電球の修理中に感電死したのです。皮肉にも、その日彼は最後のシングルとなる「アレクサンドリ・アレクサンドラ」のテレビ出演リハーサルを終えたばかりでした。彼の遺体は、愛した別荘のあるエソンヌ県のダヌモワに埋葬されました。

彼の死後も、その功績は色褪せません。2000年にはパリの彼の旧居前が「プラス・クロード・フランソワ（クロード・フランソワ広場）」と改称され、2005年には出生地イスマイリアの通りにもその名前が付けられるなど、国内外で顕彰されています。また、彼の劇的な生涯は、伝記映画『最後のマイ・ウェイ』（2012年）や、そっくりさんを題材にしたコメディ映画『スターは俺だ!』（2004年）など、多くの作品で描かれています。クロード・フランソワは、短くも鮮烈なキャリアの中でフランス音楽界に多大な足跡を残した、真のレジェンドと言えるでしょう。

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