クロード・ルフォール

クロード・ルフォール：全体主義と民主主義の哲学者

クロード・ルフォール（1924年 - 2010年）は、フランスの政治哲学者であり、特に全体主義に関する哲学的な考察で知られています。彼は、1960年代から1970年代にかけて、民主主義の哲学を構築し、世論や関心が交替し、権力が常に未完成で形成途上にある政治体制として民主主義を捉えました。マキャベリやメルロ＝ポンティの研究、そして東欧圏に関する考察は、彼の業績の中でも特に重要な位置を占めています。

生涯と思想形成

ルフォールは、当初メルロ＝ポンティに師事し、その影響からマルクス主義者となりました。しかし、ソビエト連邦に対しては批判的であり、トロツキスト運動に参加。その後、トロツキズムと決別し、コルネリュウス・カストリアディスと共に雑誌『社会主義か野蛮か』を創刊し、積極的に執筆活動を行いました。この雑誌を通じて、ルフォールはマルクス主義内部の非神話化運動に参画し、ソ連を国家資本主義と見なす立場を取りました。

「社会主義か野蛮か」グループでの活動後、ルフォールは政治活動から一時的に離れ、マキャベリの研究に没頭します。この研究は、彼の著作『著作という活動--マキャベリ』として結実し、社会的身体の分割、世論の多様性、民主主義といった重要なテーマを探求しました。

1970年代には、東欧諸国の官僚支配体制の分析を展開し、『収容所群島』を読んだ衝撃からソルジェニーツィン論を執筆。スターリン型全体主義に関するルフォールの主要な見解は、1981年に刊行された『民主主義の発明』にまとめられています。

全体主義の概念

ルフォールは、スターリニズムやファシズムを定義する上で、全体主義の概念を適用することの妥当性を主張しました。彼によれば、全体主義は、古代ギリシア以来の独裁制や専制とは本質的に異なり、20世紀後半の東欧諸国にも適用できる概念です。ルフォールは、粛清が最悪の状態にない政治体制も全体主義と呼びました。

ルフォールの全体主義論は、社会の二重の囲い込みという概念に基づいています。これは、全体主義が国家と社会の区別を廃し、政治権力が社会に浸透していくことを指します。また、全体主義は社会の内的分割の原則を否定し、社会全体を同一の目的に従属させようとします。個人の嗜好でさえ政治の対象となり、標準化されるべきだとされるのです。

ルフォールは、全体主義と独裁の違いを明確にしました。独裁が超越的原理の存在を許容するのに対し、全体主義的な党のイデオロギーは自ら宗教性を帯びています。また、独裁が社会の破壊・吸収を目指さないのに対し、全体主義的な党は自らが国家と同一化することを目指し、社会を閉ざされた一様なシステムに変えようとします。

社会有機体論とシステムのもろさ

ルフォールは、全体主義システムを統一化された有機的システムと捉え、「社会体」という一個の有機体として現れるとしました。また、全体主義システムは、自らの円滑な運行と統一性を確保するために他者を必要とし、「不吉な他者」を敵として表象します。この敵との戦いは、社会という身体が病気に抵抗する戦いの一症状と見なされるのです。

ルフォールによれば、全体主義は終わりなきプロセスであり、常に矛盾と対立を抱えています。全体主義的な党は、社会体の完全な統一化を望みながらも、その目標が到達不可能であることを知っているのです。

民主主義の概念

ルフォールにとって、全体主義概念の対極にあるのが民主主義の概念です。彼は、民主主義を社会内部の紛争を制度化している政治体制と捉え、社会体の分裂を制度化していると考えました。利害の相違や意見の対立、時には相容れない世界観の共存を承認し、正当であるとみなしています。

ルフォールの考え方では、権力の場は「空なる場所」であり、様々な利害集団や意見を異にする集団が順次、一定期間、選挙を通じて占めることになります。権力は特定の計画や目標を担っておらず、一時的に多数派となった人々が利用する道具にすぎません。

このように、ルフォールは民主主義が非決定、未完成を特徴としており、全体主義との違いを強調しました。彼は、民主主義があらゆる意味で全体主義の対極にあり、全体主義への抗議になっていると考えたのです。

結論

クロード・ルフォールの思想は、全体主義の研究を通じて、民主主義の本質を深く考察したものです。彼の全体主義概念や民主主義概念は、現代社会における自由と権力、社会のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。彼の著作は、政治哲学に関心を持つ人々にとって、必読の文献と言えるでしょう。

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