クロ教

クロ教とは

クロ教は、鹿児島県甑島のごく一部地域で信仰されていた土着宗教です。一部では「クロ宗」とも呼ばれています。この宗教は、キリスト教が禁止・弾圧されていた時代に、隠れて信仰を続けた隠れキリシタンの流れを汲むものと考えられています。

郷土史などの公的な記録では「クロ教」と表記されることが多い一方、小説や地名を伏せた創作性の高い雑誌などでは「クロ宗」と呼ばれることがあります。

由来・伝説

甑島には、1602年にドミニコ会の宣教師が来航し、キリスト教が広まったとされています。しかし、禁教令によって弾圧が始まると、1638年には信者が捕えられ処刑されたという記録が残っています。

また、甑島にある天上墓は、フランシスコ・ザビエルの通訳者であったヤジロウ（1511年? - 1550年頃?）の墓であるという伝説があります。この伝説は、キリスト教伝来の初期から甑島に信者が存在した可能性を示唆しています。さらに、島原の乱（1637年 - 1638年）以降に甑島に逃れてきた隠れキリシタンの末裔が、クロ教の信仰を始めたという説も存在します。

風評被害

クロ教は、一部の娯楽性の強いオカルト雑誌によって、事実とは異なる形で紹介されてきました。これらの雑誌では、サカヤと呼ばれる司祭が儀式を行い、信者の生き血や肝を食らうといった内容や、3mを超える高い壁の中で悪魔崇拝が行われているといった、過激で誇張された内容が記述されています。

これらの記述は、キリスト教弾圧のために流布された藩の虚言や、堀田善衛の小説『鬼無鬼島』（1957年）をモデルにしたものが多いと考えられます。江戸時代から、クロ教は恐ろしいイメージを植え付けられてきましたが、地名をぼかして掲載する出版社側の姿勢や内容から、記事の信憑性は大きく疑われています。しかし、これらの記事を実在する地名と共に引用し、Google ストリートビューを添えたブログなどが複数出現したことで、風評被害は深刻化しています。

蛭子神社との関連

片野浦の蛭子神社は、しばしばクロ教との関連が噂されますが、実際には、神社は片野浦の中心部である小岳地区に位置しており、クロ教を信仰していたとされる地区とは隔たりがあります。

研究史料

クロ教に関する研究は、以下の書籍などで見ることができます。

山折哲雄, 長田俊樹『日本人はキリスト教をどのように受容したか: 国際日本文化研究センター共同研究報告』1988年
古野清人『日本の隠れキリシタン』至文堂　1959年
* 宮崎賢太郎『カクレキリシタン』長崎新聞社 2001年 ISBN 4931493408

また、吉田絃二郎の『一人歩む』には、冒頭の「草の上」にクロについての記述があります。

まとめ

クロ教は、甑島に根付いた独自の宗教であり、隠れキリシタンの歴史を伝える貴重な存在です。しかし、誤った情報が広まることで、深刻な風評被害に晒されています。クロ教について正しく理解するためには、歴史的な背景や事実に基づいた情報を参照することが重要です。

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