禁教令

禁教令とは

禁教令とは、特定の宗教の信仰や布教を禁ずる命令（法令）のことです。日本では特にキリスト教を禁じたものが知られており、「キリスト教禁止令」や「キリシタン禁制」とも呼ばれます。禁教令は、その対象となる宗教を「侵略的」「人倫に反する」「法秩序を乱す」などと批判し、その信仰を根絶しようとする意図を持って発令されます。

日本における禁教令

日本における禁教令は、安土桃山時代から明治時代にかけて、主にカトリック教会を対象に行われました。以下にその歴史を詳しく見ていきましょう。

概要

狭義の禁教令は、1612年（慶長17年）および1613年に江戸幕府が発令したキリスト教禁止令を指します。広義には、1587年の豊臣秀吉によるバテレン追放令や、明治政府による五榜の掲示なども含まれます。

最も古い禁教令は、1565年と1569年に正親町天皇が出した宣教師追放令です。しかし、織田信長の保護政策により、その効果は限定的でした。

これらの禁教令は、その目的や性格が大きく異なります。正親町天皇の追放令やバテレン追放令は、主に宣教師の追放を目的としており、キリスト教徒に対する強制改宗のような弾圧は行われませんでした。しかし、秀吉のバテレン追放令には、神国思想に基づいたキリスト教批判が見られ、江戸幕府の禁教令に繋がる要素を含んでいました。

豊臣秀吉による禁教令

1587年のバテレン追放令

当初キリスト教を容認していた豊臣秀吉は、1587年に宣教師の国外退去を命じました。しかし、これは布教の制限が主目的であり、個人がキリスト教を信仰すること自体は許容されていました。ただし、大名のキリスト教改宗には秀吉の許可が必要であり、実際には棄教を迫られる例もありました。

秀吉が禁教令を発令した背景には、
外交権、貿易権の集中
日本人奴隷売買の禁止
* キリスト教徒による神社仏閣への迫害
など、様々な要因があったと考えられています。

しかし、秀吉自身は、イエズス会宣教師を通訳や貿易の仲介役として重用しており、勅令を完全に施行することはなかったため、結果として、追放令後も宣教師の活動は制限付きながら継続されました。

1596年の禁教令

1596年、秀吉は再び禁教令を発令し、京都で活動していたフランシスコ会（一部イエズス会）の信徒を処刑しました（日本二十六聖人）。この禁教令の背景には、サン＝フェリペ号事件が影響したとする説がありますが、真相は不明です。

この禁教令では、信徒に対する強制改宗は行われず、フランシスコ会以外への弾圧も限定的でした。秀吉はキリスト教を警戒しつつも、完全に禁止することは避けていました。

江戸幕府による禁教令

禁教令発布まで

江戸幕府は当初、キリスト教に対して従来の政策を踏襲していましたが、キリスト教の活動が活発化するにつれて態度を硬化させました。1609年のマードレ・デ・デウス号事件や、岡本大八事件をきっかけに、幕府はキリスト教を禁止する方向に舵を切ります。

慶長の禁教令

1612年、幕府は直轄地に対し、教会の破壊と布教の禁止を命じる禁教令を布告しました。これは幕府による最初の公式なキリスト教禁止令であり、諸大名もこれに倣いました。また、家臣団の中にいるキリスト教徒の捜査も行われ、厳しい処置が取られました。

1613年には「伴天連追放之文」が公布され、キリスト教を日本の宗教の敵と位置づけ、禁教の正当性を主張しました。この禁教令により、教会は破壊され、多くのキリスト教徒が国外追放となりました。

元和の大殉教

元和年間に入ると、幕府はキリスト教徒の発見と棄教を積極的に推進しました。1622年には、長崎西坂で宣教師や信徒、匿っていた者たち計55名を処刑する元和の大殉教が起きました。その後も、各地で大規模な処刑が行われました。

鎖国令と島原の乱

幕府は鎖国政策を進め、海外との交流を制限することで、宣教師の潜入を防ごうとしました。島原の乱は、キリスト教を拠り所とする農民が参加したことで、幕府に大きな衝撃を与えました。

鎖国政策は、キリスト教の弾圧が目的ではありませんでしたが、宣教師の潜入を防ぐ、海外渡航した日本人がキリシタンになるのを防ぐという側面を持っていました。

幕府の諸政策

幕府は、五人組制度や寺請制度を活用し、社会制度からのキリスト教徒の締め出しを行いました。また、密告を奨励し、踏み絵や拷問などを用いて、キリスト教徒を摘発しました。有名な拷問には、「俵責め」や「穴吊るし」があります。

幕府の政策は、処刑よりも棄教させることに重点が置かれており、多くの信徒が拷問の末に棄教しました。

禁教令の緩和

幕末の開国に伴い、禁教令は緩和されました。1859年には、外国人の信仰の自由が認められ、宣教師が来日しました。しかし、日本人に対する布教は依然として禁止されており、隠れキリシタンが発覚する事件も発生しました。

明治政府による禁教令と政教分離

明治政府は、当初江戸幕府の禁教政策を継承しましたが、列強の圧力により、1873年に禁教令を事実上廃止しました。しかし、国家[[神道]]を進めるため、宗教を政治から分離する政策を推し進めました。1899年には、キリスト教の宣教活動が公式に認められるようになりました。

後世の評価

キリスト教の禁教政策は、日本社会に大きな影響を与えました。多くの殉教者を生み出した一方で、隠れキリシタンという独自の信仰形態も生み出しました。現在では、信仰の自由が保障されており、多様な宗教が共存する社会となっています。

キリスト教以外の禁教令

キリスト教以外にも、日蓮宗不受不施派や一向宗など、禁教令が出された宗教がありました。これらの宗教も、キリスト教と同様に徹底した禁教政策を受けました。

まとめ

禁教令は、歴史的に様々な宗教に対して発令されてきました。日本では、特にキリスト教を対象としたものが有名ですが、他の宗教に対しても禁教令が出されたことがあります。禁教令は、その社会における宗教観や政治状況を反映するものであり、歴史を理解する上で重要な要素となっています。

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