クーチ・ビハール王国

クーチ・ビハール王国

クーチ・ビハール王国は、16世紀から20世紀中頃まで、東インドのクーチ・ビハール地方を支配したヒンドゥー王朝です。その歴史は、1515年にカーマタ王国の支流であるコーチ朝の成立に遡ります。首都はクーチ・ビハールに置かれました。

コーチ朝の成立と最盛期

コーチ朝は、2代目のナラ・ナーラーヤン王の時代に最盛期を迎えました。その勢力は現在のインドのアッサム州の一部やバングラデシュ北西部にまで及び、広大な領域を支配しました。

王国の分裂と変遷

1586年、ナラ・ナーラーヤン王の死後、王国は東西に分裂しました。西側はナラ・ナーラーヤンの息子ラクシュミー・ナーラーヤンが継承し、これがクーチ・ビハール王国となりました。一方、東側はナラ・ナーラーヤンの甥の政権が治めましたが、後に滅亡し、アーホーム王国（アッサム王国）に組み込まれました。

17世紀後半には、ムガル帝国の武将ミール・ジュムラーの攻撃を受け、帝国との間で長きにわたる戦争が繰り広げられました。1713年まで続いたこの戦争によって、インドとバングラデシュの国境に複雑な飛地群が形成される要因となりました。また、18世紀には、王家の内紛に乗じたブータンからの介入を受け、ブータン軍が首都クーチ・ビハールに駐留し、国政を左右するようになりました。

イギリスとの関係

1772年、ブータンが傀儡の君主を据えたことに対し、王国で反発が生じました。ブータンは抑圧のため遠征軍を派遣、クーチ・ビハール王国はイギリス東インド会社に援軍を要請しました。1773年、東インド会社の軍勢がブータン軍を撃退し、この戦争はパンチェン・ラマ3世の仲介により講和が成立しました。その後、クーチ・ビハール王国はイギリスと軍事保護条約を締結し、藩王国としてイギリスの支配下に入りました。

インドへの編入

1947年8月15日、ジャガッディーペーンドラ・ナーラーヤン王の治世に、クーチ・ビハール王国はインドへと編入され、その歴史に幕を閉じました。


この王国は、その盛衰の中で、周辺の強国との関係や内部抗争に翻弄されながらも、独自の文化を育みました。インド亜大陸の歴史を語る上で重要な位置を占める王国の一つと言えるでしょう。


参考文献

小谷汪之『世界歴史大系 南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。


関連項目

クーチ・ビハール県
* インド・バングラデシュ国境の飛地群

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