クートの戦い

クートの戦い（クート包囲戦）

クートの戦い、またはクート包囲戦は、第一次世界大戦中にメソポタミア（現在のイラク）のクート（クート・エル・アマラ、またはクッテル・アマラ）で発生した戦闘です。オスマン帝国軍が、クートに篭城したイギリス軍を包囲し、救援に駆けつけたイギリス軍部隊を撃退、最終的にイギリス軍を降伏させた戦いです。トルコ語ではクッテル・アマラ攻囲戦（Kut'ül Ammare Kuşatması）とも呼ばれます。

背景

セルマン・パク会戦（クテシフォンの戦い）での敗北後、イギリス軍はクート方面へ撤退しました。1915年12月3日、英印軍第6プーナ歩兵師団を率いるチャールズ・タウンゼンド少将はクートに到着しました。オスマン帝国軍の追撃は続いており、当初はバスラまで撤退する案も検討されました。しかし、イギリス本国からの悪評やクートの戦略的な重要性を考慮した結果、タウンゼンドはクートでの篭城を決断します。

タウンゼンドは後方のジョン・ニクソン将軍に「チトラルのようにクートを守る」と電報を打ちました。ニクソン将軍も退却には反対であり、タウンゼンドが敵部隊を阻止することが義務であると返信しました。両軍共に疲弊していましたが、オスマン帝国軍の実質的なイラク地域司令官であるヌーレッディン・ベイは追撃を続け、チグリス川の架橋を占拠しました。12月7日、ヌーレッディン・ベイは第35、第38、第45、第51師団からなる総計1万4千～5千の兵力で篭城軍の包囲を開始しました。対するイギリス軍の兵力は約1万3千とほぼ同数でした。

戦闘経過

第1期作戦（1915年12月7日～1916年1月7日）

12月7日、ヌーレッディン・ベイの部隊は砲撃を開始し、チグリス川両岸で戦闘が展開されました。砲兵の援護を受け、オスマン帝国軍はイギリス軍陣地の直前に散兵壕を構築しました。9日からは南北戦線での同時攻撃が開始されましたが、12日になっても大きな戦果は得られませんでした。24日に攻撃が再開されたものの進展はなく、ヌーレッディンは急襲から正面攻撃に戦術を切り替えました。

一方、イギリス軍は歩兵3個旅団と騎兵1個旅団（約2万）を編成し、エイルマー将軍に率いさせクート救援に向かわせました。ヌーレッディンは増援を得た後、部隊を二つに分けました。第18軍団（約7千～8千）はクートの篭城軍に対応し、自らが率いる第13軍団（約7千）はシェイフ・サアドに陣を敷き、イギリス軍救援部隊に対応しました。1月6日、エイルマー軍の前衛がオスマン帝国軍陣地の前に現れました。2日間に渡る戦闘でイギリス軍は4千もの死傷者を出し、撃退されました。対するオスマン帝国軍は散兵壕を深く掘り戦ったため、損害は646名に留まりました。1月10日、ヌーレッディン・ベイは第9軍団司令官に任命され、カフカス戦線に転出し、ハリル・ベイ大佐がイラク地域司令部の指揮を執ることになりました。

第2期作戦（1月8日～3月8日）

新司令官となったハリル・ベイ大佐は、シェイフ・サアドの陣地が前進しすぎていると判断し、第13軍団をワディ・ヒラルの後方陣地に後退させました。1月12日、エイルマーは増援を得てオスマン帝国軍陣地を攻撃しましたが、大きな損害を出し失敗しました。ハリルはフエライエの陣地がより有利と考え、さらに後退させます。1月21日、エイルマーはタウンゼンドにクートからの脱出を勧めましたが、タウンゼンドは動かず、同日にフエライエ陣地を攻撃するもまたしても撃退されました。

ハリルはチグリス川の右岸からの迂回を避けるため、川を跨いで陣地を構築し、第13軍団司令官アリ・イフサン・サービス・ベイ大佐に右岸に陣地を構築させ、包囲軍から兵力を抽出してこの方面の守備に当たらせました。3月8日、エイルマーは右岸地区から攻撃に出ましたが大敗し、オスマン帝国軍に追撃される始末でした。3月10日、ハリルは仏文の降伏勧告状をタウンゼンドに送りましたが、拒否されました。

第3期作戦（3月9日～4月22日）

3月16日、度重なる失敗によりエイルマー将軍は更迭され、参謀長のゴリンジ将軍が後任となりました。3月2日、モード将軍指揮の第13師団が砲兵旅団とともにシェイフ・サアドに到着しました。増援を受けたイギリス軍は4月4日から3日間、フエライエ陣地を攻撃しましたが失敗。9日の攻撃もまた撃退されました。4月29日以降のクート篭城は困難であるというタウンゼンドの報告を受け、ゴリンジは4月22日にフエライエへの4度目の攻撃を試みましたが、これも撃退されました。

イギリス軍は最後の試みとして、24日に輸送船で補給品をクートの篭城軍に届けようとしましたが、オスマン軍に阻止され失敗しました。この時点でクート包囲を解く、または食料を補給するイギリス軍の試みは全て失敗に終わりました。

結末

タウンゼンドは開城を決意し、4月29日、将官5名、将校476名、兵士1万3千人を率いて降伏しました。包囲戦は実に4ヶ月にも及びました。

この包囲戦について、樋口正治少佐は著書『自一九一四年至一九一八年 近東に於ける前大戦の考察』の中で、「イギリス軍はこの失敗に懲り、8ヶ月間攻勢に出ることはなく、戦力と後方機関の充実に努めた」と述べています。

脚注

参考文献

樋口正治『自一九一四年至一九一八年 近東に於ける前大戦の考察』偕行社、1940年
Ron Wilcox (2006). Battles on the Tigris: The Mesopotamian Campaign of the First World War. Pen & sword. ISBN 1844154300
* Arthur Banks (1975/2002). Military Atlas of the First World War. Pen & sword. ISBN 0850527910

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