クールラント

クールラント：バルト海の歴史を刻む地

クールラント（独: Kurland、ラトビア語: Kurzeme）は、現在のラトビア西部に位置する地方の旧名です。16世紀から18世紀にかけて、バルト・ドイツ人によるクールラント公国が存在し、その歴史は周辺大国の勢力争いに翻弄されながらも、独自の文化を育みました。

クール人の歴史

クールラントは、リヴォニア地方の中西部に位置し、古くからバルト語族のラトビア人が居住していました。その名は、この地に住んでいたクール人に由来します。9世紀にはヴァイキングが支配していたという説もありますが、定かではありません。

13世紀初頭、ドイツのリヴォニア帯剣騎士団が侵攻し、クールラントは征服されました。1237年にはドイツ騎士団領に組み込まれ、沿岸部にはクールラント司教区が設置されました。リヴォニアの他の地域と同様に、クールラントにもドイツ人が入植し、バルト・ドイツ人として社会の支配階層を形成しました。彼らはラトビア人農民を支配し、植民地型の社会構造が20世紀まで長く続きました。

1525年、プロイセンのドイツ騎士団領が世俗化し、リヴォニア騎士団は孤立しました。

クールラント公国の成立と繁栄

1561年、クールラントは世俗国家、クールラント公国として独立します。これは、モスクワ大公国の脅威に対抗するため、リヴォニア騎士団がポーランド王に臣従し、世俗化することで成立しました。初代公爵ゴットハルト・ケトラーの子孫が公位を継承し、首都はミタウ（現在のイェルガヴァ）とゴルディンゲン（現在のクルディーガ）に置かれました。国政は公爵と貴族の合議によって行われ、公国はリヴォニア戦争を生き延びました。

16世紀から17世紀にかけて、クールラント公国はスウェーデンとポーランド・リトアニア共和国の緩衝地帯として機能しました。公爵直轄領における農業経営を成功させ、通商や産業を振興し、17世紀中葉には経済的な繁栄を達成しました。第4代公爵ヤーコプ・ケトラーの時代には、西アフリカの聖アンドレ島やカリブ海のトバゴ島を植民地としました。しかし、17世紀後半にはバルト海の覇権をめぐる国際戦争に巻き込まれ、衰退していきました。歴代公爵による贅を尽くした建築事業も国庫を圧迫しました。

ロシア帝国の支配

17世紀の北方戦争と18世紀の大北方戦争で、クールラントは一時スウェーデンに占領されました。第6代公爵フリードリヒ・ヴィルヘルム・ケトラーは、ピョートル大帝の姪アンナ・イヴァノヴナを妻に迎えましたが、子供のないまま急死しました。アンナは公国の主権者となり、後にロシア女帝となりました。女帝アンナの治世下で、クールラントは事実上ロシア帝国の版図に組み込まれ、アンナは建築家ラストレッリに壮麗な宮殿群を建築させました。1737年にケトラー家が断絶すると、アンナは寵臣エルンスト・ビロンに公国を継承させました。

やがてロシア帝国が強大化し、1795年の第3次ポーランド分割によって、クールラントは正式にロシアに併合され、クールラント県となりました。18世紀末には、フランス革命から逃れたルイ18世の亡命宮廷が一時的にミタヴァの公爵宮殿に滞在しました。19世紀には、家畜繁殖や乳製品の生産で知られるようになりました。

ラトビアの一部へ

第一次世界大戦後、1920年にラトビアが独立すると、クールラントはその一部となり、現在に至っています。第二次世界大戦中には、ドイツ軍がクールラントに孤立し、「クールラント・ポケット」と呼ばれる状態になりました。

クールラントの歴史は、バルト海の地政学的な重要性と、周辺大国の勢力争いに翻弄された小国の苦難を物語っています。しかし、その中で育まれた独自の文化は、今もラトビアの一部として息づいています。

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