モスクワ大公国

モスクワ大公国について

モスクワ大公国（Великое Княжество Московское）は、キエフ・ルーシの北東部に位置し、ウラジーミル・スーズダリ公国の流れを汲む国家です。設立当初は小国でしたが、周辺の公国を統合していくことで、次第にその領土は広がりを見せました。特に1480年には、モンゴル系のジョチ・ウルスから独立したことが大きな転機となりました。これにより、モスクワ大公は初めて主権を手にし、北東ロシアの政治的統一を成し遂げました。この大公国は、その後のロシア帝国の基盤を築くこととなります。

モスクワ大公国は、別名「モスクワ・ルーシ」や「モスコビア」とも呼ばれ、歴史的な重要性を持っていました。その起源は、ノヴゴロド公国のアレクサンドル・ネフスキーの末子、ダニール・アレクサンドロヴィチによって始められます。1271年に初代モスクワ公となったダニールは、領土を拡大し、14世紀初頭にはコロムナ、ペレヤスラヴリ・ザレスキー、モジャイスクなどの地域を掌握しました。また、ヴォルガ川を利用した交通路の要所であったモスクワは、経済的な発展を遂げ、その結果、1318年にはダニールの子ユーリー3世がウラジーミル大公位を獲得します。

1325年以降、ウラジーミル大公位はトヴェリのドミトリーとその弟アレクサンドルに移行しましたが、同時にダニールの子孫であるモスクワ公イヴァン1世も政治的な影響力を強めていました。イヴァン1世は1327年のトヴェリの反乱でモンゴル勢に協力し、1330年には再びウラジーミル大公位をモスクワ公に戻しました。1360年代から70年代にかけて、ドミートリー・ドンスコイがスーズダリとトヴェリとの戦いで勝利を収め、ウラジーミール、ノヴゴロド、トヴェリの大公位はモスクワに安定して保持されました。この時期は、モスクワ大公国が実質的に成立した時期と見なされています。

1380年にドミートリー・ドンスコイはクリコヴォの戦いで勝利を収めますが、二年後にはトクタミシュによる攻撃でモスクワが占領されるという困難な時期もありました。1389年、ヴァシーリー1世が大公に即位し、1392年には複数の地域を併合します。

モスクワ大公国は、後に東ローマ帝国が滅亡すると、正教会の擁護者としての立場を強めました。1472年にイヴァン3世が東ローマ最後の皇帝の姪ソフィアを妻として迎え、モスクワを「第3のローマ」と称することで、ローマ帝国の正統な後継者であると宣言しました。こうしてモスクワ大公国はさらに勢力を増していきました。1480年にはジョチ・ウルスから独立を果たし、1547年にはイヴァン4世が「ツァーリ」として戴冠しました。この時期以降、モスクワ国家は「ロシア・ツァーリ国」と自称し、1721年にピョートル1世が「ロシア帝国」と称することになりました。

モスクワ大公国の歴史は、単なる国家の発展に留まらず、キエフ・ルーシの相続を巡る論争や民族のアイデンティティに関わる重要な側面も含まれています。モスクワはしばしば自らをキエフ・ルーシの正統な後継者と位置づけ、ウクライナなど他の地域からの反発を招くこともありました。歴史的な観点から見れば、モスクワ大公国はロシアの形成に貢献した重要な国家であることは間違いありません。

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