クーヴェルチュール

クーヴェルチュール：気性と才能の競演

2004年2月14日、北海道浦河町の富菜牧場で誕生した競走馬クーヴェルチュール。バレンタインデー生まれの彼女は、幼少期から「チョコちゃん」の愛称で呼ばれていました。父はマイルとスプリントでG1を2勝したブラックホーク、母は地方競馬で活躍したヒカリクリスタルです。ヒカリクリスタルは、重賞であるゴールドティアラを制覇し、繁殖牝馬としても京成杯勝ち馬スキップジャックを輩出していましたが、クーヴェルチュール出産後に事故で亡くなりました。そのため、クーヴェルチュールはヒカリクリスタルの最後の仔、そして唯一の牝馬となりました。

クーヴェルチュールは、高い知能と気性の激しさを持つ馬でした。幼少期からその気性は際立っており、育成牧場でも扱いに困るほどでした。母親の死というトラウマも抱えていたため、人間を警戒する面もありました。競走馬としてデビューできるかさえ危ぶまれたほどです。

2006年6月、福島競馬場でのデビュー戦で見事1着。その後も勝利を重ね、オープン特別のすずらん賞では1位入線も、競走妨害で降着という苦い経験もしました。2歳時には福島2歳ステークスを制覇するも、フェアリーステークスでは1番人気を裏切る結果に終わりました。

翌2007年、クラシック戦線に挑戦するも、思うような結果を残せず、休養を挟んで臨んだバーデンバーデンカップで古馬相手に勝利。続くアイビスサマーダッシュで3着と好走した後、キーンランドカップで横山典弘騎手とのコンビで重賞初制覇を飾りました。この勝利は、父ブラックホークにとっても中央競馬重賞初勝利となりました。しかし、その後は目立った活躍がなく、2009年4月に引退。故郷の富菜牧場で繁殖生活に入りました。

繁殖牝馬としては、「親分」「チュー」「チョコちゃん」の愛称で呼ばれ、多くの仔を産みました。しかし、流産や難産なども経験し、2021年には繁殖登録を抹消。現在は富菜牧場で、リードホースとして穏やかな余生を送っています。2021年後期からは、引退名馬繋養展示事業の助成対象馬にも選ばれました。

クーヴェルチュールの生涯は、決して順風満帆ではありませんでした。気性の激しさ、母親の死、そしてレースでの苦戦など、多くの困難を乗り越えてきました。それでも、重賞勝ちという大きな成功を収め、繁殖牝馬としても貢献しました。彼女の物語は、競走馬としての能力だけでなく、その強い精神力と個性も併せ持つ、特別な存在だったことを物語っています。

クーヴェルチュールには数々の逸話が残っています。誕生時は、下半身だけが出ている状態から自力で上半身を出したという驚きのエピソードや、獣医と注射が苦手で、ワクチン接種には枠場への閉じ込めが必要だったことなどです。また、強い縄張り意識を持つ一方で、仔馬や小さな生き物には優しく接する一面も持ち合わせていました。幼馴染であるヒカルアヤノヒメとは、追いかけっこをする関係だったそうです。

クーヴェルチュールの血統は、母ヒカリクリスタルがゴールデンティアラ賞勝ち馬、兄が京王杯2歳ステークス勝ち馬スキップジャックという、優れた競走馬の血を受け継いでいます。その血統と、彼女自身の個性あふれる生涯は、競馬ファンにとって長く語り継がれるべきものです。 クーヴェルチュールの物語は、競走馬としての成功だけでなく、その個性豊かな生き様、そして乗り越えた困難の数々が、多くの人の心に深く刻まれています。

もう一度検索