グエン・ゴク・ロアン

グエン・ゴク・ロアン：処刑写真が象徴するベトナム戦争の悲劇

グエン・ゴク・ロアン（1930年12月11日 - 1998年7月14日）は、南ベトナムの軍人であり、ベトナム戦争中に国家警察総監を務めた人物です。彼の名は、1968年のテト攻勢の最中に、路上でベトコン兵士を処刑する様子を捉えた有名な写真『サイゴンでの処刑』によって世界中に知られることとなりました。この写真は、戦争の残酷さを象徴するアイコンとして、反戦運動に大きな影響を与えました。

生涯

フエの中産階級の家庭に生まれたロアンは、薬学を学んだ後、1951年にベトナム国軍に入隊しました。士官候補生学校を経てモロッコでパイロットとしての訓練を受け、帰国後は空軍で戦闘機パイロットとして10年間勤務しました。

1966年、彼は友人でもあったグエン・カオ・キ首相によって国家警察総監に任命され、国内の反政府勢力への対応を指揮しました。仏教復興運動の鎮圧など、強硬な手段も辞さない姿勢は、アメリカ政府の一部からも疎まれる要因となりました。

テト攻勢では、サイゴンでの対ゲリラ任務を指揮しましたが、その際に捕虜を射殺した映像が世界に配信され、大きな批判を浴びました。アメリカからの圧力で一時辞任に追い込まれかけましたが、その後も政権内で重要な地位を占め続けました。

1968年5月には、指揮中にアメリカ軍の誤射を受け重傷を負い、右脚を切断することとなりました。その後アメリカで治療を受けましたが、アメリカ国内でもその存在は物議を醸し、批判にさらされました。帰国後は退役を余儀なくされ、年金で生活を送りました。

サイゴン陥落の際には、アメリカ軍の救出対象とはなりませんでしたが、空軍時代の友人らの助けで脱出に成功し、アメリカへ亡命しました。しかし、アメリカでも国外追放の危機に直面するなど、困難な生活を送りました。

その後、バージニア州でピザレストランを開業しましたが、過去が明らかになると廃業に追い込まれました。1998年、癌のためバージニア州で死去しました。

『サイゴンでの処刑』

エディ・アダムズが撮影した『サイゴンでの処刑』は、ロアンがベトコン兵士を射殺する瞬間を捉えた衝撃的な写真です。この写真は、ベトナム戦争の残忍さを象徴するものとして、世界中の人々に深い印象を与え、反戦運動を大きく推進しました。

アダムズ自身も、この写真が与えた影響を複雑な思いで見つめていたようです。彼はロアンを「冷酷で無慈悲な殺人者」と評する一方で、戦争末期には彼と親交を深め、その評価を改めたとも伝えられています。アダムズはこの写真でピューリッツァー賞を受賞しましたが、その一方で、この写真がロアンの人生に与えた影響を深く憂慮していました。

写真が問いかけるもの

『サイゴンでの処刑』は、戦争の残酷さ、人間の尊厳、そして報道の倫理など、様々な問題を私たちに問いかけます。一枚の写真が、一人の人間の人生を大きく変え、歴史を動かす力を持つことを、この写真は示しています。ロアンの人生は、ベトナム戦争の悲劇を象徴する出来事として、私たちの記憶に刻まれています。

この写真は、今もなお、私たちが戦争について、そして人間について深く考えるきっかけを与え続けています。

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