グエン・タン・ズン

グエン・タン・ズン：ベトナム社会主義共和国首相の軌跡

グエン・タン・ズンは、ベトナムの政治家として、2006年から2016年まで首相を務めた重要な人物です。彼の生涯は、ベトナム戦争、共産党政権の樹立、そして経済改革という激動の時代と密接に結びついています。

戦争から政界へ

ズンは1949年、フランス領インドシナ時代の南部カマウ省に生まれました。若い頃から祖国統一と民族解放運動に関わり、1961年にはベトナム南部解放軍に入隊。ベトナム戦争では南ベトナム解放民族戦線で活動し、1967年にはベトナム労働党（後のベトナム共産党）に入党しました。1975年の戦争終結と1976年のベトナム社会主義共和国の建国後も、ベトナム人民軍に所属し、1981年まで軍務に就きました。

共産党におけるキャリアと首相就任

軍隊を退役後、ズンはキエンザン省で共産党の党務に携わり、党委員会副書記や人民委員会委員長（省政府長官）を歴任しました。着実に地位を上げ、1991年には党中央委員となり、その後、内務省次官などを経て、1996年には党政治局員に選出され、政治局常務委員にも就任。1997年にはファン・ヴァン・カイ内閣の常任副首相（第一副首相）に就任しました。国家銀行総裁を兼務した時期もあり、金融システムの改革にも貢献しています。2001年の党大会では党政治局員に再選され、序列も上昇。そして、2006年、第11期第9回国会で首相に選出されました。2007年には首相に再任されています。

日本との関係

ズン首相は、日本との関係強化に積極的な姿勢を示しました。2006年には天皇皇后両陛下と会見し、2007年には日本との経済連携協定（EPA）交渉開始に合意しました。ODAへの感謝を表明し、日本をベトナムの最重要パートナーと位置づける発言も行っています。2010年には菅直人首相と会談し、ニントゥアン第二原子力発電所の建設などで合意しましたが、この計画は後に中止されています。2013年には安倍晋三首相とも会談しています。

中国との関係と南シナ海問題

一方で、中国の南シナ海における原油採掘については、「地域の平和への脅威」と批判するなど、複雑な外交姿勢も見せていました。

家族と批判

ズン首相の長男はホーチミン市建築大学副学長などを歴任し、異例のスピード出世を果たしましたが、これは首相による身内びいきとの批判も招きました。

引退

2016年、党中央委員の候補から外れ、首相を退任しました。彼の首相在任期間は、ベトナムの経済発展と国際関係において重要な転換期となりました。しかし、その一方で、家族への批判や南シナ海問題での対応など、複雑な評価も残っています。彼の功績と課題は、今後のベトナムの歴史において継続して議論されるでしょう。

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