グサン・マルトハルトノ

グサン・マルトハルトノは、1917年にジャワ島中部のスラカルタで生まれたインドネシアのシンガーソングライターです。彼は、インドネシアだけでなく、日本やアジア各地でも広く知られる「ブンガワン・ソロ」を作曲したことで有名です。この曲は、ジャワの伝統的な音楽スタイルであるクロンチョンの代表的な楽曲として、広く親しまれています。

生い立ちと音楽活動

グサンは、バティック職人の息子として生まれましたが、幼い頃に家業が破産し、貧困の中で育ちました。音楽は独学で学び、楽譜の読み書きはできなかったものの、独自のスタイルで作曲を行いました。彼は、竹笛の音階を数字で記録する方法を用いて作曲し、地元での結婚式や公的行事などで演奏活動を行い、生計を立てていました。

「ブンガワン・ソロ」の誕生

1940年、23歳の時に「ブンガワン・ソロ」を作曲しました。この曲は、ジャワの伝統的な音楽要素と、西洋音楽の要素を融合させたクロンチョンというポピュラー音楽のスタイルで書かれています。歌詞は、スラカルタを流れるソロ川からインスピレーションを得ており、川はグサンにとって、困難な時代にも変わらずに流れ続けるジャワ文化の象徴でした。

戦時中の広がり

「ブンガワン・ソロ」は、地元で人気を博し、ラジオで放送されると、瞬く間にインドネシア全土に広がりました。第二次世界大戦中、日本占領下では、日本軍の慰問団としてジャワ各地を巡回し、この曲は日本人の間でも人気となり、日本語の歌詞で歌われることもありました。また、捕虜収容所にいたオランダ人にも、インドネシア語を理解する人が多かったため、この曲は広く愛されました。

日本での受容

終戦後、「ブンガワン・ソロ」は日本に持ち帰られ、敗戦後の暗い時代において、そのメロディーは人々の心に深く響きました。1947年に松田トシが録音したのを皮切りに、多くの歌手がこの曲をカバーし、1951年には映画化もされました。多くの日本人は、この曲が古い民謡であると考えましたが、グサン自身が作者であることは長い間知られていませんでした。

その後の活動と評価

1980年代には、日本でもグサンが「ブンガワン・ソロ」の作者であることが知られるようになりましたが、インドネシアがベルヌ条約に加盟していなかったため、著作権料は支払われませんでした。グサンは1980年に初めて日本を訪れ、その後も数回来日し、公演を行いました。

グサンは、故郷に留まり、作曲家、歌手として活動を続けました。彼はクロンチョンの長老として尊敬され、その音楽は、かつては卑俗なものとされていたものが、尊敬に値するものへと変化していった過程を見届けてきました。

晩年と死

晩年のグサンは、質素な生活を送っていましたが、1991年には旧日本兵グループによって、スラカルタの公園に等身大の銅像が建てられました。これは、戦時中に文化の壁を超えて愛された「ブンガワン・ソロ」の作曲者に対する敬意の表れでした。グサンは1990年代末に音楽活動から引退し、2010年5月20日に、92歳で亡くなりました。遺産は、慈善事業に寄付されました。

グサンの音楽は、時を超えて人々に愛され、その功績は永遠に語り継がれるでしょう。

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