グスタフ・ギルバート

ガスターヴ・マーク・ギルバート：ナチス幹部を精神分析した心理学者

ガスターヴ・マーク・ギルバート（1911年9月30日 - 1977年2月6日）は、アメリカ合衆国の心理学者、そして軍人でした。彼は、ニュルンベルク裁判において、被告人となったナチス幹部たちの心理分析官として、その精神状態を観察し記録したことで広く知られています。

生い立ちと教育

1911年、ニューヨークでユダヤ人の家庭に生まれたギルバート。父親はオーストリアからの移民でした。9歳の時に父を亡くし、母親は彼と2人の弟を養育することが困難となり、ウエストチェスター郡のユダヤ系福祉施設に彼らを預けました。しかし、ギルバートは奨学金を得て勉学に励み、ニューヨーク市立大学シティカレッジに進学。その後、1939年にコロンビア大学から心理学の博士号を授与されました。

第二次世界大戦とニュルンベルク裁判

第二次世界大戦中、ギルバートはアメリカ陸軍に入隊し、心理学者として中尉の階級を得ました。ドイツ語を話せたことから、情報将校としてドイツ人捕虜の尋問を担当。戦後、ドイツの一般市民の心理状態を調査した際、彼らが自己正当化に終始する姿に失望したと言います。

その後、ギルバートはナチス指導層の精神分析を志し、ニュルンベルク裁判で戦犯として起訴された者たちが収容された刑務所への配属を希望。刑務所長に心理学者としての能力を売り込み、念願の刑務所付き心理分析官に任命されました。そこで、ヘルマン・ゲーリングをはじめとする被告人たちの精神状態を観察し、貴重な記録を残しました。ゲーリングが彼に語った「国民が戦争したがるように仕向けるのは簡単だ」という言葉は、特によく知られています。

戦後の活動と評価

裁判後、ギルバートはニュルンベルク裁判での被告人の精神分析をもとに、『独裁の心理学』を出版。1954年にはミシガン州立大学の助教授に就任し、その後、ブルックリンのロングアイランド大学で心理学部長を務めました。

1961年には、アドルフ・アイヒマン裁判の証人としてイスラエル政府に招かれ、ホロコーストについて証言。彼の分析は、ナチズムの心理的メカニズムを理解する上で重要な貢献を果たしました。

被告人たちからの評価

しかし、被告人たちからの評価は複雑でした。エルンスト・カルテンブルンナーは、ギルバートの行動を「我々を不安に陥れようというケチな了見」と批判。ハンス・フリッチェは、彼を「個人的には思いやりのある好人物」としながらも、「憎しみをはらんでいる」と評しました。ゲーリングは、自殺する直前に、ギルバートが処刑方法を銃殺刑にしてくれという嘆願が却下されたことをわざわざ伝えにきた人物だと遺書に書き残しています。

知能検査の結果

ギルバートは、被告人たちに知能検査も実施しました。その結果、ナチ党指導部はシュトライヒャーを除き、全員が平均以上の知能を持つことが判明。特に、シャハト、ザイス＝インクヴァルト、ゲーリング、デーニッツの4名は「天才」と分類されました。

ガスターヴ・マーク・ギルバートは、ナチス幹部の内面に迫り、その心理構造を明らかにしたことで、歴史に名を刻むことになった心理学者です。彼の研究は、独裁体制のメカニズムを理解する上で、今日もなお重要な意味を持っています。

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