グスタボ・グティエレス

グスタボ・グティエレス・メリーノ（1928年6月20日-2024年10月22日）は、ペルー・リマ出身のドミニコ会所属のカトリック司祭であり、世界的に著名な神学者でした。解放の神学運動の中心人物として、貧困や社会的不正に対する鋭い批判と、キリスト教に基づいた解放への道を提示したことで知られています。

ペルーで薬学と神学を修めた後、彼は心理学と哲学をベルギーのルーヴェン・カトリック大学で学び、さらにフランスのリヨン・カトリック大学の司牧宗教学研究所で博士号を取得しました。その専門知識と深い信仰心を背景に、彼は生涯の大半をリマの貧困層とともに過ごし、彼らの現実を深く理解しました。

グティエレスの代表作である『解放の神学：歴史、政治、救い』(1971年)は、世界中に大きな衝撃を与えました。この著作において、彼は貧困問題を単なる経済問題としてではなく、社会構造に根ざした不正の問題として捉え、キリスト教信仰に基づいた解放への道を示しました。貧しい者への深い共感と連帯の精神が、彼の思想の根底にあります。

グティエレスが提唱した「解放」には、大きく三つの次元があります。第一に、政治的・社会的な解放、つまり貧困や不正の構造的要因を取り除くための社会改革です。第二に、人々が自由と尊厳を持って自己実現できるよう、あらゆる抑圧や差別から解放されることです。そして第三に、自己中心的な生き方や罪悪感からの解放、神とのより深い関係、そして他者との真の連帯の回復です。

彼の革新的な思想は、カトリック教会内部からも多くの議論を呼びました。特に『解放の神学：歴史、政治、救い』は、当時の教皇庁から詳細な審査を受け、一部の考え方に批判が寄せられました。しかし、グティエレス自身は非難されることはなく、解放の神学運動は世界中に広がり続けました。

解放の神学運動は、中南米の貧困層や抑圧された人々から熱烈な支持を受けました。しかし、その影響力ゆえに、多くの解放神学者は危険にさらされることになります。実際、解放神学を支持する聖職者の中には、1980年代の中米で殺害された者もいました。グティエレス自身も、ローマ教皇庁から度重なる調査の対象となりましたが、ペルーの司教たちの支持もあり、非難を免れました。

グティエレスは、ノートルダム大学で神学の教授を務め、教皇庁立ペルーカトリック大学でも教鞭をとるなど、教育者としても重要な役割を果たしました。また、欧米の大学でも客員教授として活躍し、国際的な学術交流にも貢献しました。さらに、ペルー言語学院の会員であり、レジオンドヌール勲章を受章するなど、その功績は広く認められています。

彼は、『解放の神学』以外にも多くの著作を発表し、世界中の読者に影響を与えました。その著作は、貧困や不正といった現代社会の課題への深い洞察と、キリスト教信仰に基づいた解決策を示すものであり、現在でも世界中で研究され、議論されています。2024年10月22日、96歳でこの世を去りましたが、その思想は現代社会に依然として深い問いを投げかけ続けています。

主な著書として、『解放の神学』（岩波書店）、『解放と変革の神学』（新教出版社）、『解放の地平をめざして』（新教出版社）、『ヨブ記 神をめぐる論議と無垢の民の苦難』（教文館）、『神か黄金か 甦るラス・カサス』（岩波書店）、『いのちの神』（新教出版社）などがあります。

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