グスタボ・ディアス・オルダス

グスタボ・ディアス・オルダス：激動の時代を率いたメキシコ大統領

グスタボ・ディアス・オルダス（1911年3月12日 - 1979年7月15日）は、メキシコの政治家であり、1964年から1970年まで大統領を務めました。彼の在任期間は、経済成長と社会改革が進められた一方で、1968年のトラテロルコ事件という悲劇によって、その名が記憶されています。

生い立ちと初期のキャリア

ディアス・オルダスは、プエブラ州サンアンドレス・チャルチコムラ（現在のセルダン）で生まれました。父親は、ポルフィリオ・ディアス大統領時代の市長を務めていました。1937年にプエブラ州立大学で法学の学位を取得後、プエブラ州知事の秘書、労働調停委員会の長官、プエブラ州立大学の副学長、プエブラ州政府事務局長などを歴任しました。

政治家としての台頭

1943年に連邦議会の下院議員に選出され、1946年から1952年まで上院議員を務めました。1952年には、与党である制度的革命党（PRI）の代表となり、内務省で要職を歴任しました。アドルフォ・ロペス・マテオス大統領の時代（1958-1964年）には、内務大臣として、労働争議や政府批判を厳しく抑圧しました。

大統領就任と政策

1963年の大統領選挙で制度的革命党から出馬し、当選。1964年12月1日に大統領に就任しました。当時のメキシコは、キューバ危機後のアメリカ合衆国の強い影響下にあり、ディアス・オルダス政権は、アメリカが提唱する「進歩のための同盟」に沿って、共産主義の脅威に対抗するための漸進的な社会改革を推進しました。

ディアス・オルダス大統領の時代、メキシコ経済は平均6.8%という高い成長率を達成し、インフレ率は2.6%に抑えられました。特に、電気、重工業、石油、建設、商業、交通部門での成長が著しく、一人当たりGDPは18.6%上昇しました。政府は農地改革にも力を入れ、1965年から1970年の間に約2300万ヘクタールの土地を農民に分配しました。外交面では、ロペス・マテオス時代に提唱されたラテンアメリカの非核化に基づいて、1967年にトラテロルコ条約が締結されました。

国内の混乱とトラテロルコ事件

しかし、国内では反政府運動が活発化し、チワワ州マデラでのゲリラ活動やゲレロ州の師範学校教師による武装蜂起を鎮圧しました。1968年には、メキシコシティオリンピックを前に、学生運動が激化しました。同年10月2日、メキシコシティのトラテロルコ広場で集会を開いていた学生に対し、軍と警察が武力弾圧を行い、多数の犠牲者を出しました（トラテロルコ事件）。政府は犠牲者数を90人と発表しましたが、実際には数百人が殺害されたとも言われています。

この事件は、メキシコ国内外に大きな衝撃を与え、ディアス・オルダス政権の負の遺産として歴史に刻まれました。1970年のサッカーワールドカップ開会式では、観衆がトラテロルコ事件への抗議として口笛を鳴らすなど、事件の影響は長く尾を引きました。

退任後

1970年、ディアス・オルダス時代の内務大臣だったルイス・エチェベリアが大統領に就任。エチェベリアは、ディアス・オルダス時代の強硬路線を修正し、各方面との対話を試みました。ディアス・オルダスはその後、引退生活を送っていましたが、1977年にスペイン大使に任命されました。しかし、トラテロルコ事件の責任者であるディアス・オルダスの大使任命には強い反発があり、フランス大使だったカルロス・フエンテスは抗議のために辞任しました。

1979年、ディアス・オルダスは直腸癌のためメキシコシティで死去しました。享年68歳。彼は生涯、トラテロルコ事件について、共産主義者の陰謀から国家を救ったと主張し、後悔の念を表明することはありませんでした。

栄誉

ディアス・オルダスの名は、ハリスコ州のプエルト・バヤルタ国際空港の公式名称に用いられているほか、タマウリパス州には彼にちなんで名付けられた都市、グスタボ・ディアス・オルダスが存在します。

まとめ

グスタボ・ディアス・オルダスは、経済成長を遂げた一方で、トラテロルコ事件という悲劇を引き起こした、評価の分かれるメキシコ大統領でした。彼の在任期間は、メキシコ現代史における重要な転換点として、今日でも様々な議論を呼んでいます。

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