グスターヴ・ホルストの楽曲一覧

グスターヴ・ホルストの作品世界

グスターヴ・ホルスト（Gustav Holst, 1874-1934）は、20世紀初頭のイギリスを代表する作曲家の一人です。彼の名前は特に、管弦楽組曲「惑星」によって世界的に知られていますが、その創作活動は声楽曲、合唱曲、室内楽曲、管弦楽曲など多岐にわたり、生涯で数百曲に及ぶ作品を生み出しました。これらの作品群は非常に多様性に富んでおり、彼の音楽家としての進化と幅広い関心を示しています。

彼の膨大な作品を体系的に整理し、研究や演奏の便を図るため、いくつかの作品目録が存在します。特に重要なのは、作曲家の娘であり音楽学者でもあったイモージェン・ホルスト（Imogen Holst, 1907-1984）が編纂した主題別カタログです。これはホルストの生誕100周年にあたる1974年に出版され、各作品に「H番号」が付されました。このH番号は現在、ホルストの作品を特定し、参照する際の標準的な番号体系として広く利用されています。本項目で示す作品リストは、こうしたH番号や伝統的な作品番号などを基準として整理されており、ホルストの音楽的遺産全体を概観することを目的としています。

作品リストは通常、作品番号が付与された作品、H番号が付与された作品、そして番号が付与されていない作品など、いくつかのカテゴリーに分けて提示されることが多いです。彼の初期作品から晩年の作品まで、発表順やジャンルを超えて多くの音楽が含まれています。

英国の伝統音楽との対話：「6つのモリス・ダンス曲」

ホルストは自身の作曲活動において、イギリスの民謡や伝統音楽に強い関心を持ち、それらを素材とした編曲作品も数多く残しています。その中でも、1910年に作曲された管弦楽作品「6つのモリス・ダンス曲」（Six Morris Dance Tunes）は、彼の民謡への愛と編曲手腕を示す好例として挙げられます。

この作品は、イギリス民謡復興運動の中心的人物であった音楽学者セシル・シャープ（Cecil Sharp, 1859-1924）がイングランド各地で収集・記録した、伝統的な仮面舞踊であるモリス・ダンスのための旋律を元にしています。ホルストはシャープが集めた膨大な数の旋律の中から6つを選び出し、それを管弦楽用に色彩豊かに編曲しました。作品は以下の6つの楽章から構成されています。

• - Country Gardens（カントリー・ガーデンズ）
• - Constant Billy（コンスタント・ビリー）
• - Laudnum Bunches（ロードナム・バンチーズ）
• - Rigs O'Marlow（リグズ・オ・マーロウ）
• - Trunkles（トランクルズ）
• - Shepherd's Hey（シェパーズ・ヘイ）

これらの旋律は、それぞれのモリス・ダンスが持つ独特のリズム感やエネルギーを反映しており、ホルストの管弦楽編曲によって、その魅力が一層引き立てられています。特に「Country Gardens」や「Shepherd's Hey」は、軽快で耳馴染みの良い旋律として、この組曲の中でもよく知られています。

興味深いことに、「6つのモリス・ダンス曲」に含まれる旋律の中には、ホルスト以外の作曲家によっても編曲されたり、異なる文化圏へと伝播したりした例が見られます。例えば、「Country Gardens」と「Shepherd's Hey」は、ホルストの友人であり、同じく民謡を愛した作曲家パーシー・グレインジャー（Percy Grainger, 1882-1961）によっても管弦楽曲として編曲されています。特にグレインジャー版の「Country Gardens」はピアノ曲としても編曲され、世界中で演奏される機会が多く、非常に有名な楽曲となっています。

さらに、「Rigs O'Marlow」の旋律は、形をわずかに変えてアイルランドに伝わり、「The Rakes of Mallow」というタイトルでアイルランドの代表的な伝承曲の一つとなりました。そして、アメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン（Leroy Anderson, 1908-1975）が、アイルランド民謡に基づいた自身の人気作品「アイルランド組曲」（Irish Suite）の中で、この「The Rakes of Mallow」の旋律を使用しています。このように、一つの民謡旋律が、ホルストを含む複数の作曲家によって異なる形で再解釈され、国境を越えて新たな生命を吹き込まれていったという事実は、「6つのモリス・ダンス曲」が単なる編曲作品に留まらない文化的な意義を持っていることを示唆しています。

ホルストの「6つのモリス・ダンス曲」は、彼の作品リストの中で、イギリスの豊かな伝統音楽への敬意と、それを近代的なオーケストラの響きの中に昇華させる作曲家としての才能を示す重要な一例と言えるでしょう。この作品を通して、ホルストの音楽的多様性の一端と、民謡が持つ普遍的な魅力に触れることができます。

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