イモージェン・ホルスト

イモージェン・クレア・ホルスト（Imogen Claire Holst, 1907年4月12日 - 1984年 3月9日没）は、20世紀イギリスを代表する多才な音楽家です。音楽学者、指揮者、作曲家、そして鍵盤楽器奏者として幅広い分野で活動しました。姓は「ホルスト」、名は通常「イモジェン」（「イ」にアクセント）と読まれます。特に、著名な作曲家である父グスターヴ・ホルストの作品の普及や研究、さらには編曲や指揮を通じて、父の音楽を後の世代に伝える上で中心的な役割を担いました。

生涯とキャリア

イモージェンは、作曲家グスターヴ・ホルストの娘として、ロンドンのリッチモンドに生を受けました。音楽的な環境で育ち、父が教鞭をとっていたセント・ポール女学院を経て、王立音楽大学に進学。第二次世界大戦中の1941年から1944年にかけて在学し、当時のイギリス音楽界を牽引したレイフ・ヴォーン・ウィリアムズやゴードン・ジェイコブといった著名な音楽家から指導を受けました。この時期に培われた知識と技術が、その後の多様な活動の基盤となります。

大学卒業後、イモージェンは音楽・美術振興委員会（Council for the Encouragement of Music and the Arts, CEMA）にオルガニストとして勤務しました。1943年から1951年にかけてこの職にあり、その期間にはダーリントン・ホール内のアート・センターで音楽監督も務め、幅広い音楽活動の企画・運営に携わりました。

転機となったのは1952年です。イモージェンはサフォーク州のオールドバラに移り、作曲家ベンジャミン・ブリテンとの共同作業を開始しました。ダーリントン・ホールでの彼女の音楽への献身ぶりを見ていたピーター・ピアーズが、ブリテンとオールドバラ音楽祭を支えるにふさわしい人物としてイモージェンを推薦したことがきっかけでした。ブリテンは音楽祭終了直後に彼女をオールドバラへ招き、共同での活動を提案。イモージェンはこの誘いを快諾し、同年9月にはオールドバラへ引っ越しました。

当初、ブリテンからの給与の支払いは不定期で、経済的な苦労も伴いましたが、ブリテンやオールドバラ音楽祭に関わる仕事から得られる精神的な充実感は、肉体的な辛さを補って余りあるものだったと言われています。父の遺産を母に譲っていた彼女は、自分自身で使えるお金がわずかしかないにも関わらず、オールドバラでの生活は極めて質素なものでした。その後約12年間、イモージェンはブリテンの主要な助手として働き、オールドバラ音楽祭の発展に尽力しました。1956年にはオールドバラ音楽祭の芸術監督に就任し、音楽祭の運営において中心的な役割を果たしました。

また、イモージェンは古楽演奏にも情熱を注ぎました。1953年には、当時としては珍しい古楽の専門演奏団体であるパーセル・シンガーズを自ら創設し、1967年までその指揮者を務めました。これにより、古い時代の音楽の再評価と普及に貢献しました。

音楽学者・作曲家として

イモージェンは実践的な音楽活動に加え、音楽学者としても重要な業績を残しています。彼女の著作の中で最もよく知られているのは、父グスターヴ・ホルストの伝記です。これは父の生涯と作品に関する貴重な資料となっています。他にも、中世音楽、イギリス民謡、ルネサンス音楽、バロック音楽といった幅広い分野で多数の著作を出版し、音楽史の研究にも貢献しました。

作曲家としては、声楽曲や弦楽曲、そしてイギリス民謡の編曲などを手掛けています。その作品は、父の音楽の影響を受けつつも、自身の個性を反映したものでした。

晩年

イモージェン・ホルストは、長年活動の拠点としたオールドバラで、1984年に76歳でその生涯を閉じました。彼女の墓は、オールドバラの聖ピーター聖ポール教会にあり、ベンジャミン・ブリテンとピーター・ピアーズの墓のすぐ後ろという、彼らとの強い絆を示すかのような場所に位置しています。イモージェン・ホルストは、父の音楽を後世に伝え、ブリテンやオールドバラ音楽祭を支え、古楽の普及にも貢献するなど、イギリス音楽界の多様な側面に深く関わった偉大な音楽家でした。

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