メキシコが生んだ
プロボクサー、
グティ・エスパダス・ジュニア(Guty Espadas Jr.)は、
1974年9月2日に
ユカタン州メリダで生を受けた。彼の名前が
ボクシング界で特別な意味を持つのは、単に元世界王者であるというだけでなく、彼が
ボクシング史上初の「親子二代にわたる世界王者」という偉業を達成した人物だからである。父である
グティ・エスパダスもまた、かつてWBA世界
フライ級王者として世界の頂点に立っていた。父親と同じ道を歩み、世界のベルトを手にしたジュニアは、
ボクシング史に燦然と輝く記録を打ち立てた。
プロキャリアの歩み
グティ・エスパダス・ジュニアのプロとしてのキャリアは、
1992年10月8日に始まった。着実に経験を積み重ねた彼は、地域タイトルへと駒を進める。1997年12月13日、
メキシコの同胞であるエクトール・マルケスが保持していたWBCアメリカ大陸
フェザー級王座に挑戦。激しい攻防の末、スプリットデシジョン(2-1)ながら判定をものにし、見事タイトルを獲得した。この王座はその後、一度の防衛に成功している。
世界王座獲得と歴史的快挙
地域タイトルでの成功を経て、エスパダス・ジュニアは
ボクシング界の最高峰である世界王座を目指す。そのチャンスが訪れたのは、
2000年4月14日のことだった。空位となっていたWBC世界
フェザー級王座を懸け、
フィリピンのベテラン強豪
ルイシト・エスピノサと対戦。試合は熾烈な展開となったが、偶発的なバッティングによりエスピノサが負傷し、11回途中で試合がストップ。試合はそれまでの採点による負傷判定となり、エスパダス・ジュニアに勝利が宣告された。この勝利により、彼は念願のWBC世界
フェザー級王座を獲得。そして、この瞬間こそが、彼が父
グティ・エスパダスに続き世界王者となった、
ボクシング史上初の「親子世界王者」誕生の瞬間であった。この歴史的な快挙は、世界中の
ボクシングファンに大きな感動を与えた。
世界王者となったエスパダス・ジュニアは、初防衛戦を
2000年6月23日に行った。対戦相手はタイのウェタヤ・サクムアンクラン。この試合をフルラウンド戦い抜き、3-0のユナニマスデシジョン(全員一致の判定)で勝利し、初防衛に成功した。
強豪モラレスとの激闘、そして王座陥落
WBC世界
フェザー級王者としてその名を確立したエスパダス・ジュニアだったが、次なる相手は強力な暫定王者だった。
2001年2月17日、真の世界王者を決定するためのWBC世界
フェザー級王座統一戦で、
メキシコの怪物
エリック・モラレスと対戦することになった。この一戦は大きな注目を集めたが、モラレスの圧倒的な
ボクシングの前に苦戦を強いられ、フルラウンドを戦ったものの、0-3の判定負けを喫し、世界王座から陥落した。
再起と再びの挑戦
世界王座を失った後も、エスパダス・ジュニアはリングに立ち続けた。
2002年11月16日には、再びWBCアメリカ大陸
フェザー級王座決定戦に出場し、クラレンス・アダムス(
アメリカ合衆国)を2-1の判定で破り、同タイトルを再び獲得した。
再び世界の頂点を目指す過程で、彼は因縁の相手である
エリック・モラレスとの再戦の機会を得る。
2003年10月4日に行われたWBC世界
スーパーフェザー級王座挑戦者決定戦で両者は激突。しかし、この試合は前回の対戦とは異なり、より一方的な展開となり、エスパダス・ジュニアは3回にKO負けを喫した。
その後も世界挑戦の機会を模索し続けたエスパダス・ジュニアは、
2004年12月3日にはWBCアメリカ大陸
フェザー級王座を懸けて
ロッキー・ファレス(
アメリカ合衆国)と対戦したが、2回にKO負けを喫し、王座獲得はならなかった。
しかし、彼は諦めなかった。
2008年5月31日、
メキシコのチェトゥマルで行われたWBC世界
フェザー級王座挑戦者決定戦で、日本の松田直樹と対戦。この重要な一戦で、エスパダス・ジュニアは2回TKO勝ちを収め、WBC世界
フェザー級王座への指名挑戦権を獲得した。
再び巡ってきた世界挑戦のチャンスは、
2010年2月20日だった。当時のWBC世界
フェザー級王者エリオ・ロハス(
ドミニカ共和国)に挑んだが、12回フルラウンドを戦い抜いたものの、判定負けを喫し、二度目の世界王座獲得はならなかった。
グティ・エスパダス・ジュニアのキャリアは、多くのアップダウンがあったが、最大の功績はやはり、父
グティ・エスパダスの後を継いでWBC世界
フェザー級王者となり、
ボクシング史上初の「親子二代世界王者」という不滅の記録を打ち立てたことである。彼は第30代WBC世界
フェザー級王者として一度の防衛に成功し、記憶に残る数々の激闘を繰り広げた。そのキャリアは、偉大な父を持つ息子の挑戦と成功、そして頂点での戦いの厳しさを示しており、
ボクシング史にその名を刻んでいる。