グラス・スパイダー・ツアー

グラス・スパイダー・ツアー

デヴィッド・ボウイが1987年に開催した「グラス・スパイダー・ツアー」は、彼のアルバム『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』の発表を受けて世界各地で行われた大規模なコンサート・シリーズです。このツアーの名前は、同アルバムに収録されている楽曲「グラス・スパイダー」から採られています。

ツアーの特徴と参加アーティスト

「グラス・スパイダー・ツアー」は、単なる音楽パフォーマンスに留まらず、演劇的な要素や大規模なセット、照明、映像を駆使した視覚的に凝った演出が大きな特徴でした。これは、照明デザインを担当したアレン・ブラントン、セットデザインを手掛けたマーク・ラヴィッツ、そしてビデオディレクターのクリスティン・ストランドといった専門チームが加わっていたことからも伺えます。

ツアーを支えたバンドメンバーには、ボウイ自身がリード・ボーカルとギターを担当した他、名だたるミュージシャンが名を連ねています。特に注目されるのは、ピーター・フランプトンとカルロス・アロマーという二人の個性的なギタリストが参加していたことです。フランプトンはギターに加え、リード・ボーカルやバッキング・ボーカルも担当。長年のボウイの協力者であるアロマーはギターとバッキング・ボーカルに加え、音楽監督としても重要な役割を担いました。ベースはカーマイン・ロハス、ドラムはアラン・チャイルズが務め、リズムセクションを支えました。また、エルダル・キジルケイはキーボード、トランペット、コンガ、ヴァイオリン、バッキング・ボーカルと多岐にわたる楽器を操り、リチャード・コトルもキーボード、サクソフォーン、タンバリン、バッキング・ボーカルを担当するなど、多才なサポートメンバーがサウンドに厚みを加えていました。

音楽面だけでなく、このツアーには専属のツアーダンサーチームも帯同していました。メリッサ・ハーリー、コンスタンス・マリー、クレイグ・アレン・ロースウェル、ヴィクトル・マノエル、スティーブン・ニコルズといったダンサーたちが、トニー・バジルによる振付のもと、ステージ上でパフォーマンスを繰り広げ、ショー全体に物語性や視覚的なインパクトを与えていました。

記録と映像作品

この歴史的なツアーの模様は、後世に映像記録として残されています。1987年11月にオーストラリアのシドニーで行われた8公演のうちのいくつかが撮影され、編集を経て1988年にはコンサート映像作品『グラス・スパイダー』としてリリースされました。この映像作品は、当時のツアーの規模や演出、そしてボウイとバンド、ダンサーたちが一体となって作り上げる世界観を知る上で貴重な資料となっています。

さらに時を経て、2007年にこの映像作品がDVDとして再びリリースされた際には、特典としてカナダのモントリオールで1987年8月30日に行われた公演のライブ音源を収録したCDが付属する形で提供されました。このモントリオール公演のセットリストは、ツアー中に演奏された楽曲の一例ではありますが、ツアー全体のレパートリーや曲順を完全に代表するものではない点には留意が必要です。

「グラス・スパイダー・ツアー」は、デヴィッド・ボウイのキャリアにおける一つの到達点であり、当時の最先端を行く音響、照明、舞台美術、そしてパフォーミングアートを融合させた意欲的な試みでした。映像作品としてその記録が残されたことで、時代を超えて多くのファンがその迫力と創造性を追体験できるようになっています。

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