グリーン・イズ・ビューティフル

グラント・グリーンによるアルバム『グリーン・イズ・ビューティフル』は、1970年に録音・発表されたスタジオ作品です。アメリカを代表するジャズ・ギタリストであるグリーンが、ファンクやR&Bの要素を大胆に取り入れた、当時の彼の音楽性の変化を示す重要な一枚として位置づけられています。

制作背景

このアルバムは、前年の1969年にリリースされた『キャリーン・オン』に続く、グラント・グリーンにとって二作目のジャズ・ファンク色の強い作品です。前作ではエレクトリックピアノの一種であるローズ・ピアノが用いられていましたが、本作ではサウンドの中核を担うキーボードとして、より存在感のあるハモンドオルガンが採用されました。この楽器の変更は、サウンド全体の雰囲気に大きな違いをもたらしています。リッチで分厚いオルガンの音色が、グリーンのギターと絡み合い、よりグルーヴィーでファンキーなアンサンブルを生み出しています。

収録曲の中には、当時人気のあった楽曲のカヴァーも含まれています。特に注目すべきは、ビートルズのサイケデリックな名曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の翻案です。この曲は、すでにジャズ界でもウェス・モンゴメリーらが取り上げていましたが、グリーンによる演奏は、彼の先達であるモンゴメリーへの敬意を表しつつ、独自のファンキーな解釈を加えています。長尺の演奏の中で、グリーンは自在にギターを操り、原曲のメロディラインを崩しながらも、楽曲の本質を捉えたインプロヴィゼーションを展開しています。

反響と評価

『グリーン・イズ・ビューティフル』は、リリース当時からリスナーや批評家から一定の評価を得ました。商業的にも成功を収め、アメリカのビルボード誌R&Bアルバム・チャートでは最高24位を記録しました。これは、ジャズという枠を超えて、R&Bやファンクのリスナーにも広く受け入れられたことを示しています。

音楽評論家たちの評価も概ね好意的でした。例えば、オールミュージックのスティーヴ・ヒューイはこのアルバムに5点満点中3点を与え、そのサウンドを称賛しました。彼は、前作『キャリーン・イズ・キャリーン・オン』の比較的ソフトな色合いと比較し、本作がよりハードでファンキーなR&Bサウンドを追求している点を指摘しました。さらに、ヒューイは、この作品が明確に商業性を意識しており、ジャズ以外のリスナーにとっても親しみやすい作りになっていることに言及し、「これは（ジャズの純粋主義者から異論が出る可能性はあるが）決して悪いことではない」と述べています。このコメントは、当時のジャズ界における、よりポピュラーな音楽への接近に対する賛否両論があった状況を反映しています。

参加ミュージシャン

本作のグルーヴを支えるのは、グラント・グリーンを囲む強力なメンバーです。ドラムスには、ファンク・ドラミングの名手として知られるアイドリス・ムハマッドが参加し、タイトかつ躍動的なリズムを提供しています。ベースはジミー・ルイスが担当し、ボトムをしっかりと支えています。キーボードは、収録曲によって二人の奏者が参加しており、「エイント・イット・ファンキー・ナウ」「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」「恋よさようなら」「ドラキュラ」ではエマニュエル・リギンスが、そして「ザ・ウィンドジャマー」ではニール・クリーキーがハモンドオルガンを演奏しています。管楽器には、ブルース・ミッチェル（トランペット）とクロード・バーティ（テナー・サクソフォーン）が加わり、アンサンブルに彩りを加えています。さらに、パーカッションとしてキャンディド（コンガ）とリチャード・ランドラム（ボンゴ）が参加し、リズムセクションに奥行きとファンクネスを加えています。

収録曲

このアルバムには以下の5曲が収録されています。

1. エイント・イット・ファンキー・ナウ - "Ain't It Funky Now" (James Brown) - 9:59
2. ア・デイ・イン・ザ・ライフ - "A Day in the Life" (John Lennon, Paul McCartney) - 9:02
3. ザ・ウィンドジャマー - "The Windjammer" (Neal Creque) - 5:42
4. 恋よさようなら - "I'll Never Fall In Love Again" (Burt Bacharach, Hal David) - 6:47
5. ドラキュラ - "Dracula" (N. Creque) - 6:04

特に、ジェームス・ブラウンのカヴァーであるオープニングの「エイント・イット・ファンキー・ナウ」は、アルバム全体のトーンを決定づけるファンキーなナンバーです。また、バート・バカラック作の「恋よさようなら」や、ニール・クリーキーによるオリジナル曲「ザ・ウィンドジャマー」、「ドラキュラ」も、グリーンのメロディアスかつグルーヴィーなギタープレイを堪能できる楽曲となっています。

まとめ

『グリーン・イズ・ビューティフル』は、グラント・グリーンが時代の潮流を捉え、ジャズとファンクを融合させた音楽性を追求した時期の成果を示す作品です。ハモンドオルガンをフィーチャーした躍動感あふれるサウンドは、発表から時を経た現在でも多くの音楽ファンを魅了しています。彼のキャリアの中でも特に商業的に成功し、ファンキーなジャズを語る上で欠かせない一枚と言えるでしょう。

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