キャリーン・オン

『キャリーン・オン』（Carryin' On）は、著名なアメリカ合衆国のジャズ・ギタリスト、グラント・グリーンによって1969年に録音され、翌1970年にブルーノート・レコードから発表されたスタジオアルバムです。

背景と音楽性

本作は、グリーンにとって約4年ぶりとなる古巣ブルーノートでの録音であり、その音楽性はこれまでのジャズ路線から一変、ファンキーなジャズ・ファンクへと大きく舵を切った記念碑的な作品と言えます。特に、アナログ盤のA面は全曲が当時の流行であったR&Bナンバーのカヴァーで構成されており、ジャズとソウル、ファンクの融合を目指すグリーンの新たな方向性が明確に示されています。具体的には、ニューオーリンズ・ファンクを代表するバンド、ミーターズの「イーズ・バック」、フィリー・ソウルグループ、リトル・アンソニー＆ジ・インペリアルズのヒット曲「ハート・ソー・バッド」、そして「ファンクの帝王」として知られるジェームス・ブラウンの強烈な一曲「アイ・ドント・ウォント・ノーバディ・トゥ・ギヴ・ミー・ナッシング」といった、人気R&Bアーティストの楽曲が大胆にカヴァーされています。これらの選曲からも、本作が当時の音楽シーンの動向を強く意識し、より幅広いリスナー層にアプローチしようとする意図がうかがえます。アナログ盤のB面には、グリーンのオリジナル曲を含む、長尺の演奏が収録され、バンド全体の演奏力やインプロヴィゼーションも存分に披露されています。

参加ミュージシャン

本作のファンキーなサウンドを支えたのは、当時の気鋭のミュージシャンたちです。グラント・グリーンのギターを中心に、電気楽器を多用した編成が特徴です。

グラント・グリーン - ギター
クロード・バーティ - テナー・サクソフォーン
ウィリアム・ビヴンス - ヴィブラフォン
クラレンス・パーマー - エレクトリックピアノ (トラック 1, 2, 3, 4)
ニール・クリーキー - エレクトリックピアノ (トラック 5)
ジミー・ルイス - エレクトリックベース
* アイドリス・ムハマッド - ドラムス

アイドリス・ムハマッドによるタイトでグルーヴィーなドラムスや、ジミー・ルイスのエレクトリックベースは、楽曲のファンキーな基盤を形成しています。また、クラレンス・パーマーとニール・クリーキーが演奏するエレクトリックピアノが、当時のサウンドを特徴づける重要な要素となっています。クロード・バーティのテナー・サクソフォーンやウィリアム・ビヴンスのヴィブラフォンも、楽曲に彩りを加えています。

収録曲

アルバムには以下の5曲が収録されています。

1. イーズ・バック - "Ease Back" (作曲: Leo Nocentelli, Art Neville, George Porter Jr., Ziggy Modeliste) - 5:48
2. ハート・ソー・バッド - "Hurt So Bad" (作曲: Teddy Randazzo, Bobby Hart, Bobby Wilding) - 6:50
3. アイ・ドント・ウォント・ノーバディ・トゥ・ギヴ・ミー・ナッシング - "I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself)" (作曲: James Brown) - 6:12
4. アップショット - "Upshot" (作曲: Grant Green) - 10:04
5. 爆撃をやめろ - "Cease the Bombing" (作曲: Neal Creque) - 8:50

前述の通り、トラック1から3はR&Bのカヴァー曲であり、トラック4「アップショット」はグラント・グリーン自身によるオリジナル、トラック5「爆撃をやめろ」は本セッションに参加しているニール・クリーキーの作曲によるものです。これらの楽曲は、いずれもグルーヴを重視した演奏が展開されています。

反響と評価

『キャリーン・オン』は、商業的にも一定の成果を収めました。アメリカ合衆国におけるビルボードのR&Bアルバム・チャートでは、最高で49位を記録しています。

音楽評論サイト「オールミュージック」において、スティーヴ・ヒューイはこの作品に5点満点中3点を与えています。彼は、グリーンのギタープレイについて、「以前に比べてコードを多用する傾向が見られる」としつつも、「ソロパートでは紛れもなくブルージーなフィーリングを発揮している」と評しました。一方で、本作が「グリーンの初期からのジャズ志向のファンを強く惹きつける作品ではないかもしれない」と指摘しています。しかし、その価値については、「彼がこの時期に発表した他の多くの作品と同様、アシッドジャズ、ファンク、あるいはレア・グルーヴといったジャンルのコレクターにとっては、ぜひともコレクションに加えるべき一枚」であると強調し、その後の音楽シーンにおける本作の重要性を示唆しています。

まとめ

『キャリーン・オン』は、グラント・グリーンがそれまでのハードバップ路線から脱却し、新たなジャズ・ファンクの世界へと踏み出したキャリアの転換点を示す作品です。当時のR&Bやファンクの潮流を取り入れ、よりリズミカルでグルーヴィーなサウンドを追求した本作は、発表当時は賛否両論を呼んだかもしれませんが、時代を経てアシッドジャズやレア・グルーヴの再評価が進む中で、そのファンキーな魅力が改めて認識され、多くの音楽愛好家にとって重要な一枚となっています。

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