グレイテスト・ヒッツ (ヴァン・ヘイレンのアルバム)

ヴァン・ヘイレン『グレイテスト・ヒッツ』（Best of Volume I）

1996年に世に送り出された『グレイテスト・ヒッツ』（原題：Best of Volume I）は、アメリカのロックバンド、ヴァン・ヘイレンにとってキャリア初となる公式ベスト・アルバムです。バンドの長い歴史における節目として発表された本作は、それまでの活動を総括する内容となっています。

このベスト盤には、過去にリリースされた9作のスタジオ・アルバムから厳選された楽曲が収められています。対象となったのは、『ダイヴァー・ダウン』（1982年）を除く全てのスタジオ作品です。中心となるのは、それぞれの時代のバンドを代表するヒット曲や重要な楽曲たちで、本国アメリカ盤には14曲、日本盤にはボーナス・トラックとして「ホット・フォー・ティーチャー」が追加された15曲が収録されました。さらに、本作の大きな特徴として、当時の最新楽曲が含まれている点が挙げられます。1996年公開の映画『ツイスター』のサウンドトラックに提供された「ヒューマンズ・ビーイング」に加え、初期のボーカリストであるデイヴィッド・リー・ロスが一時的にバンドへ復帰した際に録音された新曲が2曲収められています。これら新曲を含む全ての収録曲は、ヴァン・ヘイレンによって書かれたオリジナル楽曲であり、カヴァー曲は一切収録されていません。

本作のために新たに録音された楽曲のうち、「ヒューマンズ・ビーイング」と「ミー・ワイズ・マジック」は、アメリカの音楽雑誌『ビルボード』のメインストリーム・ロック・チャートにおいて首位を獲得するなど、大きな成功を収めました。また、「キャント・ゲット・ディス・スタッフ・ノー・モア」も同チャートで12位を記録しています。

このベスト・アルバムのリリースは、バンドにとって重要な出来事であると同時に、内情においては複雑な状況を抱えていました。特に、アルバム発表後にデイヴィッド・リー・ロスが再びバンドを離れることになったことは、当時のファンに衝撃を与えました。ロスの短期間での復帰と離脱は、本作に収録された新曲の録音時期と密接に関連しています。

一方、当時の正式なボーカリストであったサミー・ヘイガーは、このベスト盤のリリース自体に否定的な見解を示していたことが知られています。彼は後に受けたインタビューで、このアルバムに収録された新曲、特に自身のボーカルではない楽曲が含まれていることについて言及しています。ヘイガーは、これらの新曲は映画サウンドトラック用だと聞かされて制作に関わったにも関わらず、実際はベスト盤のために使われたと感じており、こうしたバンド側との間の認識のずれや対立が、彼の脱退の一因となったと語っています。彼の脱退は、本作のリリース時期と重なっており、このベスト盤がバンドの過渡期に発表されたことを物語っています。

以下に、本ベスト盤に収録された楽曲リスト（日本盤に準拠）と、そのオリジナル収録アルバムを示します。

暗闇の爆撃 - "Eruption"：『炎の導火線』（1978年）より
叶わぬ賭け - "Ain't Talkin' 'Bout Love"：『炎の導火線』より
悪魔のハイウェイ - "Runnin' With the Devil"：『炎の導火線』より
踊り明かそう - "Dance the Night Away"：『伝説の爆撃機』（1979年）より
ロックン・ロール・ベイビー - "And the Cradle Will Rock..."：『暗黒の掟』（1980年）より
アンチェインド - "Unchained"：『戒厳令』（1981年）より
ジャンプ - "Jump"：『1984』（1984年）より
パナマ - "Panama"：『1984』より
ホット・フォー・ティーチャー - "Hot for Teacher"：『1984』より（日本盤ボーナス・トラック）
ホワイ・キャント・ディス・ビー・ラヴ - "Why Can't This Be Love"：『5150』（1986年）より
ドリームス - "Dreams"：『5150』より
ホエン・イッツ・ラヴ - "When It's Love"：『OU812』（1988年）より
パウンドケーキ - "Poundcake"：『F@U#C%K』（1991年）より
ライト・ナウ - "Right Now"：『F@U#C%K』より
キャント・ストップ・ラヴィン・ユー - "Can't Stop Lovin' You"：『バランス』（1995年）より
ヒューマンズ・ビーイング - "Humans Being"：映画『ツイスター』サウンドトラック（1996年）より
キャント・ゲット・ディス・スタッフ・ノー・モア（ラジオ・エディット） - "Can't Get This Stuff No More"：新曲
ミー・ワイズ・マジック - "Me Wise Magic"：新曲

本作に参加した主なミュージシャンは以下の通りです。

エドワード・ヴァン・ヘイレン：ギター、キーボード
マイケル・アンソニー：ベース
アレックス・ヴァン・ヘイレン：ドラムス
デイヴィッド・リー・ロス：ボーカル（上記楽曲リストの1～9、17、18）
* サミー・ヘイガー：ボーカル（上記楽曲リストの10～16）

『グレイテスト・ヒッツ』は、ヴァン・ヘイレンのキャリアを代表するヒット曲と、当時ならではの新曲を組み合わせた、バンドの多様性と変遷を示す重要な一枚と言えるでしょう。

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