グレーアム・ウォーラス

グレーアム・ウォーラス：政治学に心理学を取り入れた先駆者

グレーアム・ウォーラス(1858-1932)は、イギリスを代表する政治学者、社会学者であり、フェビアン協会の創設メンバーとしても知られています。彼の生涯と業績は、現代政治学に多大な影響を与え続けています。

初期の人生と教育

イングランド北東部のサンダーランドに生まれたウォーラスは、名門シュルーズベリ・スクールを経てオックスフォード大学コーパス・クリスティ・カレッジを卒業しました。1882年、後のフェビアン協会の主要メンバーとなるシドニー・ウェッブと出会います。その後、ハイゲート・スクールで古典教師を務めながら、社会学、経済学、心理学の研究に没頭しました。

フェビアン協会と教育行政

1884年、ロンドン経済学校の設立と共に政治学講座を担当。1886年にはフェビアン協会に正式加入し、1888年には執行委員に選出されるなど、協会の中核を担いました。並行して、ロンドン教育委員会やロンドン技術教育委員会の委員を務め、教育行政にも深く関わりました。1904年にはロンドン州会に選出されますが、同年、関税問題での意見対立をきっかけにフェビアン協会を離れます。

ロンドン経済学校と大学評議会

1907年、ロンドン経済学校がロンドン大学に統合されると、ウォーラスは政治学教授に就任。1908年から20年間、大学評議会の評議員として活躍しました。1923年に教授職を退いた後は、研究活動に専念しました。そして1932年、コーンウォール州ポートローで75歳で生涯を終えました。

思想と学問への貢献

ウォーラスの研究は多岐に渡りますが、初期の研究テーマは、イギリス労働運動の重要人物、フランシス・プレースでした。この研究は、労働階級に関する科学的研究の先駆けとなり、レズリー・スティーヴン、マーク・ホーヴェル、ハモンド夫妻といった後続の研究者達に大きな影響を与えました。

彼の政治学研究の特徴は、教育行政や政治における実践経験を豊富に盛り込んでいる点にあります。また、ウィリアム・ジェームズの心理学が更新しつつあった教育理論に接したことで、人間の衝動を「教育」によって制御するという新しい視点を獲得しました。これは、人間性を制度から切り離して考える従来の政治学への批判的な視点の形成につながりました。ウォーラスは、政治学に新しい心理学に基づいたアプローチを取り入れるべきだと主張しました。

ウォーラスは、固定された人間性を否定し、主知主義的な政治学アプローチを批判しました。人間は利害や計算だけでなく、本能や衝動にも動かされる存在であり、集団が大きくなるほどその行動は予測不能になると彼は指摘しました。代議制民主主義における大衆心理、広告、官僚といった課題にも着目し、政治をより複雑な現象として捉え直しました。彼にとって政治学は、人間性の探求そのものでした。

主な著作

ウォーラスの著作は、政治学、社会学、心理学にまたがる幅広いテーマを扱っています。代表的な著作として以下が挙げられます。

『フランシス・プレース伝』(1898)
『政治における人間性』(1924)
『大社会』(1914)
『社会的遺産』(1921)
『思考の技術』(1926)
『社会的判断』(1932)
* 『人と理念』(1940)

これらの著作は、日本語にも翻訳され、現代においても高く評価されています。ウォーラスの思想は、現代政治学、社会学、心理学に多大な影響を与え続けています。彼の業績は、人間の本質を深く理解しようとする試みであり、現代社会の課題を考える上で、依然として重要な示唆を与え続けていると言えるでしょう。

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