グレート・パゴダ

キューガーデンのグレート・パゴダ：東洋と西洋の融合

ロンドンのキューガーデンにそびえ立つグレート・パゴダは、18世紀の建築史において重要な位置を占める建造物です。高さ50メートル、10階建てのこのパゴダは、灰色レンガを用いた壮麗な外観が特徴で、中国風のデザインと西洋建築技術が見事に融合した、他に類を見ない建築物と言えるでしょう。

ウィリアム・チェンバーズと18世紀の異文化交流

1761年、建築家のウィリアム・チェンバーズによって建造されたグレート・パゴダは、当時、イギリスで高まっていた中国文化への関心を象徴する建造物です。チェンバーズ自身、中国やベンガルへの渡航経験を持ち、『東洋式造園に関する論考』などの著作を残した人物であり、彼の知識と経験が、このパゴダのデザインに反映されていると考えられています。

パゴダのデザインは、中国の塔を模倣したもので、曲線的な屋根、チャイニーズ・チッペンデール様式のバルコニー、そして80匹の龍の装飾など、中国建築の特徴が随所に散りばめられています。当初、屋根は緑と白のタイルが交互に葺かれていましたが、現在の鉛板葺き屋根も、歴史的考証に基づいた修復によって施されたものです。

建築様式と歴史的背景

チェンバーズは、パッラーディオ建築の伝統を踏まえながらも、積極的に中国建築の要素を取り入れていました。しかし、彼にとって中国様式は、庭園を飾る装飾の一部に過ぎませんでした。彼の著作『サリーのキューにある庭園と建築』には、パゴダのデザインが中国の塔を模倣したものであることが記されています。

興味深いのは、グレート・パゴダの原型となった中国の建築物について、様々な説があることです。大報恩寺琉璃塔や、赤崗塔、琶洲塔など、複数の候補が挙げられており、チェンバーズの渡航経験や入手した資料に基づいて、彼がどの建築物を参考にデザインしたのか、現在も研究が続けられています。

建造から修復へ

グレート・パゴダはわずか6ヶ月という短期間で完成したと言われており、その迅速さと高い建築技術は、チェンバーズの誇りでした。しかし、第二次世界大戦中には兵器実験場として使用されたため、各階に穴が開けられるなど、建物は損傷を受けました。20世紀末には老朽化が進み、一般公開が中止されました。

2006年から始まった大規模な修復工事では、可能な限り史料に基づいた正確な復元が目指されました。龍の装飾も忠実に再現され、その作業には現代技術である3Dプリンターも用いられています。2018年に一般公開が再開されたグレート・パゴダは、歴史的建築物の保存と現代技術の融合によって蘇った、貴重な存在と言えるでしょう。

ヨーロッパにおけるシノワズリ建築の傑作

建築史家ブリジット・チェリーは、このパゴダを「シノワズリの卓越した例」と評しています。そして2019年の研究では、「ヨーロッパに現存するもっとも著名なシノワズリ建築」と評価されています。グレート・パゴダは、単なる庭園の装飾物ではなく、18世紀の異文化交流、建築技術、そして歴史的建造物の保存という、様々な要素が凝縮された、貴重な建築遺産なのです。253段の階段を上り、頂上から眺めるキューガーデンの景色は、きっと忘れられない体験となるでしょう。

参考文献

Bertram, Aldous (2013). “Cantonese Models for the Great Pagoda at Kew”. The Georgian Group Journal XXI: 47–57.
Cherry, Bridget; Pevsner, Nikolaus (2002). London 2: South. The Buildings of England.
* その他多数の文献

もう一度検索