キューガーデン

キュー・ガーデンズ：世界的な植物学研究の中心地

ロンドンの南西郊外、キューに位置するキュー・ガーデンズ（Kew Gardens）は、世界で最も名高い植物園の一つです。1759年、宮殿付属の庭園として創設された歴史を持ち、現在では、膨大な植物コレクションと活発な研究活動で知られています。2003年にはユネスコ世界遺産に登録され、その歴史的・文化的価値が認められています。

貴重な植物コレクションと研究活動

キュー・ガーデンズは、700万点を超える種子植物の標本、125万点もの菌類および地衣類の標本を所蔵しています。これらの標本は、アフリカ、熱帯アジア、オーストララシアなど世界各地から収集されたもので、植物分類学、生態学、遺伝学などの研究に活用され、新種の発見にも貢献しています。植物園は、オンラインデータベースを通じて、これらの情報を世界中に公開し、植物に関する知識の普及にも努めています。

キュー・ガーデンズは単なる植物園にとどまらず、大規模な研究施設でもあります。古くから『カーティス・ボタニカル・マガジン』を出版するなど、出版活動にも力を入れており、『熱帯東アフリカの植物誌』の編纂（1948～2012年）など、大規模な研究プロジェクトも数多く実施しています。この『熱帯東アフリカの植物誌』は、ウガンダ、ケニア、タンザニアの植生を網羅した大著で、12100種を収録し全263巻にものぼります。

また、ライデン植物園など、世界中の研究機関と連携し、国際的な植物誌の完成を目指しています。ミレニアム・シード・バンク・プロジェクトを主導するなど、種子保存にも積極的に取り組んでいます。

歴史的建造物と美しい景観

キュー・ガーデンズの敷地内には、18世紀から19世紀にかけて建てられた歴史的建造物が数多く残されています。鉄骨造りのガラス温室である「パーム・ハウス」と「テンパレート・ハウス」、オレンジェリー、シャーロット女王のコテージ、キュー・ガーデンズのパゴダなどは、その美しい建築様式と歴史的価値から、イギリス指定建造物1級に指定されているものもあります。広大な敷地には、ツツジの「デル」など、さまざまな植栽も見どころとなっています。

キュー・ガーデンズと植民地時代

キュー・ガーデンズは、イギリス植民地時代の政策とも深く関わっています。世界各地から有用な植物を収集し、イギリス国内での栽培や品種改良を行い、植民地へ移植してプランテーションでの大量生産を図る拠点として機能しました。例えば、中国産の茶をインドやスリランカへ、アマゾン川流域産の天然ゴムをマレー半島へ移植するなど、世界中の植物資源をイギリスの産業発展に役立てました。この活動は、世界各地の生態系に影響を与えた一面もあります。

キュー・ガーデンズと日本の桜

キュー・ガーデンズには、日本から贈られた桜が多数植樹されています。1980年には日本花の会から松前系の八重桜53本、1993年には浅利政俊氏から58品種の桜が寄贈され、現在もその多くが美しく咲き誇っています。これらの桜は、イギリス各地に広がり、その中には王立園芸協会のガーデン・メリット賞を受賞した品種もあります。

世界遺産としての価値

キュー・ガーデンズは、その歴史的建造物、広大な植物コレクション、そして国際的な研究活動から、世界遺産登録基準(2)(3)(4)を満たし、世界遺産として認められています。その価値は、植物学研究の発展、文化交流、そして人類の歴史に貢献した証として、未来へ継承されていくでしょう。

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