ケタリング・バグ

ケタリング・バグについて

ケタリング・バグ（Kettering Bug）は、アメリカ陸軍によって開発された空中魚雷であり、現代の無人航空機や巡航ミサイルの先駆けとされています。この機体は、発射地点から約75マイル（120km）先の目標を攻撃する能力を持ち、多くの技術革新を集約したものでした。

開発の背景

第一次世界大戦中、アメリカ陸軍航空局は無人の「飛行爆弾」を開発する計画を持っていました。このプロジェクトはオハイオ州デイトンにいるチャールズ・ケタリングに依頼され、最初は50マイル（80km）先を攻撃できる設計が求められました。結果として誕生した機体は、正式にはケタリング空中魚雷（Kettering Aerial Torpedo）と称されましたが、一般にはケタリング・バグとして知られるようになりました。

この開発には、航空学の専門家であるオービル・ライトがコンサルタントとして関与し、誘導操縦装置の設計にはエルマー・アンブローズ・スペリーが携わりました。実際の試作機はデイトン＝ライト・カンパニーによって製造され、有人操縦機は「デイトン＝ライト・バグ」として名付けられました。

機体の特性

ケタリング・バグは小型の複葉機であり、その大きさは翼幅が15フィート（約4.5m）、全長が12.5フィート（約3.8m）、高さが7.7フィート（約2.3m）というものでした。搭載していたエンジンは40馬力の4気筒デ・パルマエンジンで、主にフォード・モーターの製品が使用され、比較的安価な約40ドルであったと言われています。機体の構造は木材と張り子から構成され、全体の重量は530ポンド（約240kg）でした。

離陸には新たなドリーが使用され、ライト兄弟の初飛行と同様の方式で行われました。離陸後、機体は搭載された小型のジャイロスコープによって制御され、目的地に向かって時速約120マイル（約193km/h）で飛行します。制御システムには空気/真空システムや電気システムが搭載され、高度計なども利用されました。

さらに、バグが目標に命中したかどうかを確認するために、特殊な航路追跡システムが開発されており、技術員は出発前に飛行経路に沿った風速や方向を考慮に入れ、追跡距離を計算しました。エンジンが必要な回転数に達した時点でエンジンが停止し、機体は目標に向かって弾道を描いて落下し、搭載していた180ポンド（約81kg）の爆薬が爆発します。

飛行試験とその後

ケタリング・バグの試作機は1918年、第一次世界大戦の終わりに完成し、アメリカ陸軍通信隊の航空部に配備されました。最初の飛行は1918年10月2日に行われましたが、残念ながら失敗し、機体は離陸後に急上昇し、墜落してしまいました。

その後、いくつかの成功した試験が行われ、デイトンでのデモ飛行も成功を収めました。ケタリング・バグはデイトンでの6度の試験飛行のうち2回成功し、アミティヴィルでは4回飛行して1回が成功、カールストロムでは14回飛行し4回成功しました。しかし、戦争が終結するまでにはバグの実戦投入は行われず、約45機が生産されたものの、その存在と技術は第二次世界大戦まで秘密にとどまりました。

1920年代に予算削減が行われるまで、陸軍航空部はケタリング・バグの実験を続け、その後オハイオ州デイトンのアメリカ空軍博物館には原寸大の再現機が展示されています。また、1917年4月から1920年3月までの期間に、アメリカ政府はケタリング・バグに約275,000ドルを費やしました。

関連項目

さらに、ケタリング・バグに関連する技術や思想は、後の武器開発にも影響を与えており、たとえば第二次世界大戦の際に日本が設計した特攻機「剣」や、同戦争において開発された世界初の巡航ミサイル「V1飛行爆弾」など、同様の理念を持つ兵器が登場しています。

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