チャールズ・ケタリング

チャールズ・ケタリング：発明と功罪

チャールズ・フランクリン・ケタリング（1876年～1958年）は、アメリカ合衆国オハイオ州出身の発明家、エンジニア、そして社会哲学者でした。農民の家に生まれ、教員やメカニックとしての経験を経て、独自の道を切り開いた人物です。彼の発明は、現代社会の基盤を形作る上で大きな役割を果たしましたが、同時に環境問題という負の遺産も残しました。

デイトン時代とデルコの設立

オハイオ州立大学で電気工学を専攻した後、ケタリングは「チームによるアイデアの進化」を信条として、数々の革新的なプロジェクトに取り組みました。20世紀初頭の工業都市デイトンで、彼はエドワード・A・ディーズと共に1909年、デイトン・エンジニアリング・ラボラトリーズ・カンパニー（後にデルコとして知られる）を設立します。この会社は、高い技術力を持つエンジニアや科学者たちを集め、活気あふれる研究開発拠点となりました。ケタリングは、エンジニアズ・クラブ・オブ・デイトンを設立するなど、地域社会への貢献にも積極的に関わっています。第一次世界大戦中には、自動車技術者団体SAEの会長も務めました。

数々の画期的発明

ケタリングは生涯で300以上の特許を取得し、その発明は自動車産業を中心に現代社会に大きな影響を与えました。NCR社在籍時にはレジスターの電動化に成功し、デルコでは自動車用イグニッションシステム（高圧点火システム、日本ではポイント式として知られる）、セルモーター、電気式ヘッドライトを発明しました。特にセルモーターは、それまでのクランク式始動に代わる画期的な発明であり、キャデラックへの搭載を皮切りに、広く普及しました。これらの電気関連の発明は、自動車の安全性と利便性を飛躍的に向上させました。

ケタリングの発明は自動車業界にとどまりません。携帯型ライト、空中魚雷（現代の巡航ミサイルの先駆け）、未熟児保育器、発電機など、多岐にわたる分野で革新的な技術を生み出しました。また、速乾性塗料「Duco」の開発にも貢献し、自動車塗装技術の発展に大きく寄与しました。さらに、ディーゼルエンジンや太陽エネルギーの利用方法の研究開発にも携わっています。

有鉛ガソリンとフロン：技術革新と環境問題

しかし、ケタリングの功績は全て称賛されたわけではありません。トマス・ミジリーとの共同開発による有鉛ガソリンは、高オクタン価燃料として広く普及しましたが、後に深刻な環境問題を引き起こしました。生産開始直後から人体への有害性が指摘され、作業員の死亡事故も発生。それでも、1960年代まで広く使用され続け、大気汚染や健康被害をもたらしました。

さらに、フロンガスを用いた冷却技術の開発も、オゾン層破壊という深刻な環境問題を引き起こしました。ケタリングは、技術革新の過程において、その潜在的なリスクを十分に考慮していなかったと批判されています。

ケタリングの遺産

ケタリングは、多くの名言を残し、数々の賞を受賞しました。彼の発明家としての才能と、社会に対する貢献は、今もなお高く評価されています。GMIエンジニアリング・アンド・マネジメント・インスティテュート（現在のケタリング大学）や、メモリアル・スローン＝ケタリングがんセンターなど、彼の名にちなんだ施設も数多く存在します。しかし同時に、有鉛ガソリンとフロンガスによる環境問題という負の遺産も残しました。

ケタリングの生涯は、技術革新と環境問題という現代社会の重要な課題を考えさせる、複雑で多面的な物語です。彼の功績を正しく理解し、未来社会への教訓として活かすことが重要です。

もう一度検索