ケツギョ科

ケツギョ科 (Sinipercidae)

分類上の位置づけ

ケツギョ科（Sinipercidae）は、硬骨魚類の中でも特に多様なグループであるスズキ目（Perciformes）に分類される魚類の科です。この科に属するすべての魚類は、海ではなく淡水域に生息しています。

分類学的な歴史をたどると、ケツギョ科の魚類は、かつてスズキ目内のペルキクティス科（Percichthyidae）の一部として扱われていました。しかし、その後の詳細な形態学的特徴の比較や、近年発展した遺伝子解析などの分子生物学的な研究が進んだ結果、ケツギョ科はペルキクティス科とは異なる独立した系統に属することが明らかになりました。現在では、むしろサンフィッシュ科（Centrarchidae）により近縁であるとして、ペルキクティス科から分離され、独立した科として広く認識されています。このような分類学上の位置づけの変更は、魚類に関する知見の蓄積と研究技術の発展に伴って見直されてきた過程を示しています。

分布域

ケツギョ科の魚類は、その分布域が主に東アジアに限定される固有のグループです。具体的には、中国の広い範囲、ベトナムの一部地域、朝鮮半島全域、そして日本の各地に至るまで、その生息が確認されています。これらの地域に流れる河川の中下流域や、湖沼、池などの比較的流れの緩やかな場所や止水域といった淡水環境が、彼らの主要な生息地となっています。地域によって生息する種は異なり、それぞれの環境に適応した形で暮らしています。

生態と形態的な特徴

ケツギョ科の魚類が持つ生態的な特徴の中で、最も際立っているのはその強い魚食性です。成長した個体は、主に他の小型の魚類を積極的に捕食することで生計を立てています。このような肉食性の食習慣は、彼らの体の構造、特に消化や摂食に関連する器官に独特の特徴として現れています。

まず、鰓（えら）の内側に備わっている鰓耙（さいは）の数が非常に少ないことが挙げられます。鰓耙は通常、水と一緒に吸い込んだプランクトンなどの小さな餌を鰓で濾し取る際に重要な役割を果たしますが、本グループのように魚を丸ごと捕食する場合には、その機能がほとんど必要ありません。この鰓耙数の減少は、魚類の初期発生や形態形成に関わる重要な遺伝子の一つである、エクトジスプラシンA受容体（EDAR）の発現が低いことと関連があることが、近年の分子生物学的研究で示唆されています。

さらに、特にケツギョ属（Siniperca）に属する種において顕著に見られる特徴として、消化管の末端近くにある幽門垂（ゆうもんすい）という盲嚢状の器官の数が増加する傾向が見られます。幽門垂は、消化酵素の分泌や栄養素の吸収を助ける役割を担っており、その数の増加は、魚という比較的大きく、栄養価が高く、かつ消化に時間を要する餌を効率的に消化吸収するための、消化器官における適応であると考えられています。

内部分類（属）

現在、ケツギョ科として認識されているグループは、現生する2つの属と、化石としてのみ発見されている1つの絶滅属によって構成されています。

現生する属としては、以下の2つが確認されています。

Coreoperca Herzenstein, 1896（オヤニラミ属）: 日本を含む東アジアに分布するオヤニラミ（Coreoperca kawamebari）などが含まれる属です。
Siniperca Gill, 1862（ケツギョ属）: 大型になるケツギョ（Siniperca chuatsi）などが含まれる属です。

また、絶滅した属として、以下の化石属が報告されています。

* †Inabaperca Yabumoto & Uyeno, 2000

これらの属の下に、複数の種が分類されており、それぞれの種が特定の地域や環境に適応した形で生息しています。ケツギョ科は、その分類学的な位置づけや、強い魚食性に関連した独特な形態的特徴、そして東アジア固有の分布から、生物学的にも興味深い魚類グループです。

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