ケムトレイル

ケムトレイル陰謀論とは

ケムトレイル（chemtrail）とは、化学物質（chemical）と飛行機雲（trail）を組み合わせた造語で、飛行機雲が実は、政府や闇の組織が秘密裏に散布している有害な化学物質であるとする陰謀論です。この陰謀論は、1990年代後半に広まり、現在でも一定数の支持者がいます。

主な主張

ケムトレイル陰謀論の主な主張は以下の通りです。

通常の飛行機雲はすぐに消えるが、ケムトレイルは長時間残り、空を覆う。
ケムトレイルは、人口削減、気象操作、マインドコントロールなどのために散布されている。
ケムトレイルには、バリウム、アルミニウムなどの有害物質が含まれている。
政府や科学者は、ケムトレイルの存在を隠蔽している。

これらの主張は、科学的な根拠が全くなく、多くの研究機関や科学者によって否定されています。

ケムトレイル陰謀論の歴史

ケムトレイル陰謀論は、1996年にアメリカ空軍が気象制御に関する報告書を発表したことがきっかけで広まりました。インターネットの普及とともに、この陰謀論は急速に拡散し、多くの人々が信じるようになりました。2000年代には、政府機関がこの陰謀論を否定する声明を発表しましたが、信奉者はこれを陰謀の証拠だと解釈しています。

新型コロナウイルス感染症の流行とケムトレイル陰謀論

2019年からの新型コロナウイルス感染症の流行により、陰謀論への関心が高まり、ケムトレイル陰謀論も再び注目されるようになりました。COVID-19の拡散やワクチン接種、マインドコントロール、人口削減計画、新世界秩序（NWO）といった様々な陰謀論と結びつけられ、SNSを通じて拡散しました。このため、ファクトチェック機関が多数の記事を公開し、この陰謀論を否定しています。

ケムトレイルの根拠とされているもの

ケムトレイル信奉者は、以下のようなものを根拠に、その存在を主張しています。

残留時間の長い飛行機雲: 通常の飛行機雲よりも長く残る雲をケムトレイルと解釈し、特別な物質が散布されていると主張します。
特殊な形状の雲: 格子状や平行な縞模様など、特殊な形状の雲をケムトレイルの証拠としています。
分析結果: 大気から採取した物質を分析した結果、有害物質が検出されたと主張する場合があります。しかし、これらの分析には誤りや誤解が多く、科学的な根拠はありません。

エドワード・スノーデンの証言

元CIA職員のエドワード・スノーデン氏は、ケムトレイルの証拠を求めて政府の機密情報を調べましたが、何も見つからなかったと証言しています。

ケムトレイル陰謀論の信奉者の信念と活動

ケムトレイル陰謀論の信奉者は、以下のような特徴を持っています。

科学に対する不信感: 政府や科学者の見解を信じず、独自の解釈や情報源を重視します。
陰謀論への強い信念: ケムトレイルが、世界的な陰謀の一部であると信じています。
活動: ケムトレイルの存在を主張するイベントや抗議活動に参加したり、政府機関に問い合わせたりします。

信奉者は、自身の体験を「目覚め」と表現し、ケムトレイルの真実を広めるために様々な活動を行います。

科学的な反証

ケムトレイル陰謀論は、科学的な根拠が全くありません。科学者は、以下のような理由でケムトレイル陰謀論を否定しています。

飛行機雲のメカニズム: 飛行機雲は、航空機の排気ガスに含まれる水蒸気が凝縮してできる自然現象です。大気の状態によっては長時間残ることもあります。
有害物質の不在: ケムトレイルに含まれると主張される有害物質は、大気中に自然に存在するものであり、特別な散布によるものではありません。
科学的な証拠の欠如: ケムトレイルの存在を裏付ける科学的な証拠は一切ありません。逆に、多くの研究によって、ケムトレイルは単なる飛行機雲であることが証明されています。

飛行機雲とは

飛行機雲は、航空機のエンジンから排出される水蒸気が、上空の低温環境で凝縮し、氷の結晶となったものです。大気の湿度や温度、風の状況によって、すぐに消えることもあれば、長時間残ることもあります。飛行機雲が拡散したり、形状が変化したりするのは自然現象であり、特別な化学物質が散布されているわけではありません。

大気科学者の見解

大気科学者は、ケムトレイルとされている雲は、単に飛行機雲が様々な気象条件で変化したものであると説明しています。

日本での活動

日本では、2010年代後半からSNSを中心にケムトレイル陰謀論が広まっています。極右思想の勢力に支持される傾向があり、海外の事例と同様の活動が見られます。

大衆文化におけるケムトレイル

ケムトレイルは、フィクション作品にも登場することがあります。

アニメ: Netflixで配信されているアニメ『陰謀論のオシゴト』では、ケムトレイルがエアロゾルのような吸入薬として描かれています。
音楽: 楽曲のタイトルやテーマとしてケムトレイルが使用されることがあります。

まとめ

ケムトレイル陰謀論は、科学的な根拠がないにも関わらず、多くの人に信じられている陰謀論です。この陰謀論は、科学への不信感や政府への不信感、陰謀論的な思考など、様々な要因によって支持されています。しかし、科学的な視点から見れば、ケムトレイルは単なる飛行機雲であり、有害物質の散布は行われていません。

参考資料

日本ファクトチェックセンター（JFC）: 「(ケムトレイル)政府が飛行機雲で有害物質を空から散布している」は誤り【ファクトチェック】
アメリカ合衆国環境保護庁（EPA）: 航空機からの飛行機雲に関する情報

その他参考文献
ASIOS、奥菜秀次、水野俊平『検証 陰謀論はどこまで真実か』文芸社、2011年
ASIOS『増補版 陰謀論はどこまで真実か』文芸社、2021年
左巻健男＋RikaTan委員『雑誌『RikaTan（理科の探検）』 2014年冬号』株式会社 文理、2014年
世界陰謀評議会『創作のための陰謀論&オカルトガイド』笠倉出版社、2015年
左巻健男『ニセ科学を見抜くセンス』新日本出版社、2015年
雨宮純『あなたを陰謀論者にする言葉』フォレスト出版、2021年
左巻健男＋RikaTan委員『雑誌『RikaTan（理科の探検）』 2022年1月号』株式会社 文理、2021年
* 左巻健男『陰謀論とニセ科学 - あなたもだまされている -』ワニブックス、2022年

もう一度検索