ケルテース・アンドル

アンドレ・ケルテース（1894年7月2日-1985年9月28日）は、20世紀を代表する写真家の一人です。ハンガリー・ブダペスト生まれ、アメリカ・ニューヨーク没。本名はケルテース・アンドルですが、フランス語圏からの紹介が多いことから、日本ではアンドレ・ケルテースとして知られています。

ケルテースは、戦間期に活躍した多くのハンガリー出身の写真家の中でも、特に重要な存在として位置づけられています。彼の作品は、洗練された構図とデザイン、そして独特のユーモアが特徴です。一見、何気ない日常の風景を切り取った写真も、ケルテースの手にかかると、不思議な魅力を放つアート作品へと変貌を遂げます。

彼の代表作として挙げられるのは、「モンドリアン宅にて(1926)」や「ムードン(1928)」などです。これらの作品は、ケルテースの卓越した構図センスと、被写体への鋭い観察眼、そして軽妙なユーモアが絶妙に融合した、まさに彼の才能を象徴するものです。さらに、歪んだ鏡像を用いたヌードシリーズなども残しており、その表現方法の幅広さも彼の魅力の一つとなっています。

ケルテースの写真は、単なる記録写真ではなく、見る者の心に深く響く芸術作品です。彼の作品世界は、計算され尽くした構図とデザインによって支えられていますが、同時に、そこに潜むユーモアや詩情が、見る者に深い感動を与えてくれます。どこにでもありそうな風景が、彼の視点と技術によって、新たな意味と価値を獲得しているのです。

ケルテースの作品は、数多くの写真集や展覧会を通じて紹介されています。代表的な文献としては、『アンドレ・ケルテス写真集』（岩波書店）、『アンドレ・ケルテス展 その生涯の鏡像』（東京都写真美術館）、そして彼の著作『オン・リーディング』『読む時間』（いずれも創元社）などがあります。これらの資料を通して、ケルテースの人となりや作品に対する考え、そして彼の芸術への情熱を深く知ることができます。

興味深いのは、イギリスのポストパンクバンド、ポップ・グループが1980年発表のアルバム『ハウ・マッチ・ロンガー』のジャケットに、ケルテースの写真（キスするジプシーの子供たち）を使用したことです。これは、ケルテースの写真が、時代や国境を越えて人々の心を捉え、広く共感を得ていることを示す一例と言えるでしょう。

アンドレ・ケルテースは、戦間期から晩年まで、独自の視点と高い技術で数々の名作を生み出し続けました。彼の作品は、現代においてもなお、私たちに多くのインスピレーションを与え続けています。その独特の視点、洗練された構図、そして何よりも彼の作品に宿るユーモアと詩情は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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