ケレスティヌス5世 (ローマ教皇)

ケレスティヌス5世：隠遁者から教皇へ、そして幽閉の生涯

13世紀末、ヨーロッパは教会の混乱に見舞われていました。1292年、教皇ニコラウス4世の崩御後、後継者選びは長きに渡り紛糾。有力者の思惑が錯綜し、教皇座は2年間も空位のままだったのです。この混沌とした状況を打破するため、突如として白羽の矢が立ったのが、ピエトロ・ダ・モローネ。彼はイタリアのイゼルニア出身、質素な暮らしを送り、貧者や病人の救済に尽力する修道会を設立した隠遁者でした。

教皇への意外な選出

教皇選出会議（コンクラーヴェ）は膠着状態に陥り、ナポリ王カルロ2世の介入も事態打開には至りませんでした。そんな中、ピエトロは枢機卿らに手紙を送り、教皇選出の遅延を戒めました。その手紙がコンクラーヴェに衝撃を与え、なんとピエトロ自身を教皇に推戴する声が上がることに。本人も予想外の展開に戸惑いましたが、ナポリ王やハンガリー王らの説得を受け、1294年7月、ケレスティヌス5世として即位しました。

半年で退位した教皇

しかし、ケレスティヌス5世の教皇在位は長くは続きませんでした。ローマには赴かずナポリに滞在し、事実上ナポリ王の傀儡として政治に翻弄された彼は、数ヶ月後には自ら退位を決意します。教皇の座を厭い、隠遁生活への回帰を望んだのです。教会法に詳しい枢機卿の助言を受け、自ら退位に関する法令を発布。存命のまま教皇を退任するという、当時としては異例の事態となりました。この決定には、毎晩のように聞こえる「教皇職を辞し、隠者の生活に戻れ」という謎の声に悩まされていたという逸話も残っています。

ボニファティウス8世との確執と悲劇的な最期

ケレスティヌス5世の後継には、彼に退位を勧めたとされるベネデット・カエターニ枢機卿がボニファティウス8世として即位しました。しかし、ボニファティウス8世はケレスティヌス5世の退位の合法性に疑問を呈するイタリア貴族コロンナ家の圧力にさらされます。この圧力をかわすため、ボニファティウス8世は驚くべき行動に出ました。なんと、前教皇ケレスティヌス5世を幽閉したのです。

フモーネ城の牢獄に幽閉されたケレスティヌス5世は、感染症による苦痛の中で10ヶ月後に獄死しました。晩年は苛酷な運命に翻弄されたケレスティヌス5世でしたが、その後、列聖されました。彼の短い教皇在位と、その後の人生は、中世ヨーロッパの政治的駆け引きと権力闘争の残酷さを物語る、一つの象徴的な事例と言えるでしょう。彼の生涯は、権力と信仰、そして人間の弱さと強さを同時に浮き彫りにしています。

ケレスティヌス5世とスピリトゥアル派

ケレスティヌス5世の短い教皇在任中に、重要な出来事がありました。それは、フランシスコ会内のスピリトゥアル派への独立許可です。スピリトゥアル派は、フランシスコ会の清貧の精神を厳格に実践するグループで、13世紀後半には教会内部で弾圧を受けていました。ケレスティヌス5世は、このグループに独立を認め、「教皇ケレスティヌスの貧しき隠遁者」という名称を与えています。この行為は、ケレスティヌス5世自身の禁欲的な生活信条と、当時の教会社会における改革の兆候を示唆する出来事と言えるでしょう。しかし、この決断もまた、彼の短命な教皇在任中に起こった数々の政治的複雑な出来事の1つに過ぎなかったのかもしれません。

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