ケー・スンヒ

ケー・スンヒ：北朝鮮柔道の英雄

ケー・スンヒ（桂 順姫、Kye Sun-hi、1979年8月2日 - ）は、北朝鮮・平壌直轄市出身の女子柔道家です。身長158cmと小柄ながら、その卓越した柔道技術と精神力で、1996年アトランタオリンピック柔道女子48kg級での金メダル獲得をはじめ、数々の国際大会で輝かしい成績を収めました。

幼少期から柔道への道へ

10歳で柔道を始めたケー・スンヒは、その才能を早くから開花させます。1995年には、48kg級の選手でありながら、国内の無差別大会で優勝を飾るという驚異的な強さを見せつけました。牡丹峰高級学校在学中の1996年、16歳でアトランタオリンピックにワイルドカードで初出場。

アトランタでの衝撃的な金メダル

アトランタオリンピックでは、女子柔道48kg級で当時84連勝中だった日本の田村亮子選手（後の谷亮子）を破るという大番狂わせを起こし、金メダルを獲得しました。この勝利は世界中を驚かせ、ケー・スンヒの名を世界に知らしめることとなりました。帰国後、彼女は金正日総書記から「人民体育人」の称号、豪華な乗用車、高級アパート、そして朝鮮労働党の党員資格を与えられました。また、彼女の金メダルを記念した切手も発行されました。この切手には、ガッツポーズをするケー・スンヒの横で、愕然とする田村亮子選手の姿が描かれており、日本への優越感を露骨に表現したと話題になりました。

ルールを変えた柔道着

アトランタオリンピックの決勝戦でケー・スンヒが着用した柔道着は、当時暗黙のルールとされていた「上衣を左前に着てはならない」という規定に反していました。このことがきっかけとなり、国際柔道連盟は柔道着の着方に関するルールを明文化することとなりました。この一件は、彼女の勝利が単なる勝利以上の意味を持つことを示唆しています。また、田村選手はこの決勝戦で、普段と違う組み手に苦戦し、ケー・スンヒのデータが全くなかったことも敗因の一つと考えられています。

その後の活躍

翌年には階級を52kg級に上げると、1997年の世界選手権では決勝に進出しましたが、アトランタオリンピックで優勝したフランスのマリー＝クレール・レストゥーに敗れて2位に終わりました。しかし、その後も1998年アジア大会優勝、1999年世界選手権3位と、安定した成績を残し続けました。2000年シドニーオリンピックでは準決勝で敗れ3位となりましたが、2001年の世界選手権では決勝でドイツのラファエラ・インブリアーニを破り、世界チャンピオンの座を手にしました。

さらに2003年には階級を57kg級に上げ、世界選手権で優勝、オリンピックを含めると3階級制覇を達成しました。2004年のアテネオリンピックでは決勝でドイツのイボンヌ・ベニシュに敗れて銀メダルに終わりました。しかし、2005年の世界選手権では再びベニシュを破って優勝し、2007年の世界選手権では決勝でスペインのイサベル・フェルナンデスを破り、世界選手権4連覇を達成しました。2008年の北京オリンピックでは、2回戦で敗退し、メダル獲得はなりませんでした。

引退とその後

2010年10月、ケー・スンヒは現役引退を表明し、牡丹峰体育団の柔道コーチに就任しました。2018年には、国際柔道連盟（IJF）の殿堂入りを果たし、その功績が世界的に認められました。授賞式では、韓国の曺敏仙選手と共に壇上に上がり、両国のスポーツ交流の象徴となりました。

人物像とその他のエピソード

ケー・スンヒは、韓国でも非常に人気が高く、2002年の釜山アジア大会では、韓国の国民的英雄である河亨柱選手と共に最終聖火ランナーを務めました。北朝鮮にとって、メダル獲得が期待できる数少ない選手の一人であり、その活躍は国民の誇りでした。2006年2月27日には、柔道コーチのキム・チョルとの結婚を発表しました。

主な戦績

1996年 - アトランタオリンピック 優勝 (48kg級)
1997年 - 世界選手権 2位 (52kg級)
1997年 - アジア選手権 優勝 (52kg級)
1998年 - アジア競技大会 優勝 (52kg級)
1999年 - アジア選手権 優勝 (52kg級)
1999年 - 世界選手権 3位 (52kg級)
2000年 - チェコ国際 優勝 (52kg級)
2000年 - シドニーオリンピック 3位 (52kg級)
2001年 - ドイツ国際 優勝 (57kg級)
2001年 - 世界選手権 優勝 (52kg級)
2002年 - アジア競技大会 3位 (52kg級)
2003年 - チェコ国際 3位 (57kg級)
2003年 - 世界選手権 優勝 (57kg級)
2004年 - アテネオリンピック 2位 (57kg級)
2005年 - 世界選手権 優勝 (57kg級)
2007年 - 世界選手権 優勝 (57kg級)
2008年 - ドイツ国際 3位 (63kg級)
2008年 - 北京オリンピック 2回戦敗退 (57kg級)

(出典：JudoInside.com)

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