ゲオルク・ヴィルヘルム・パープスト

ゲオルク・ヴィルヘルム・パープスト：表現主義から社会派へ、波乱の映画人生

ゲオルク・ヴィルヘルム・パープスト (1885-1967) は、オーストリア＝ハンガリー帝国（現在のチェコ）で生まれ、ドイツを代表する映画監督の一人です。技術者を志望した父とは異なり、幼い頃は軍人を夢見ていましたが、視力の弱さから断念。その後、演劇に魅せられ、ウィーンの演劇学校を経て、ドイツ語圏の各地の劇場で俳優として活躍しました。

1911年、アメリカへ渡り、ニューヨークのドイツ系劇団で俳優として活動する傍ら、演出家としても手腕を発揮。第一次世界大戦の勃発によりフランス軍の捕虜となり、4年間収容所で過ごしますが、そこで仲間たちと劇団を結成するなど、困難な状況の中でも創作活動を続けました。

戦後、ウィーンに戻ったパープストは、プラハやウィーンの劇場で演出家として成功を収め、その後、ドイツのベテラン映画監督カール・フレーリヒと出会い、映画界へ進出します。1923年、助監督を経て『財宝』で監督デビュー。この作品ですでに、光と影の巧みなコントラストを駆使した、独自の映像美が確立されていました。

パープストは、表現主義的な誇張とリアリズムの融合という独特のスタイルで、次々と傑作を発表していきます。1925年の『喜びなき街』は、戦後のドイツ社会の貧困と苦悩をリアルに描き、世界的に高い評価を獲得。続く『心の不思議』（1926年）では精神分析学を取り上げ、映画表現の可能性を追求しました。

ルイーズ・ブルックス主演の『パンドラの箱』（1929年）は、パープストの代表作の一つとして知られ、彼の国際的な名声を不動のものとしました。その後も、『淪落の女の日記』（1929年）、『西部戦線一九一八年』（1930年）、『三文オペラ』（1931年）、『アトランティド』（1932年）など、多様なテーマとスタイルの作品を発表し続けました。これらの作品には、彼の戦争体験や社会への鋭い洞察が反映されています。

ナチス政権下では、ドイツ国外で活動せざるを得ない状況に置かれました。ハリウッドやフランスで映画制作を続けましたが、ハリウッドの商業主義的な映画制作スタイルには馴染めず、フランスでもかつての輝きは失われていきました。

第二次世界大戦中は、ドイツに残り、ナチス宣伝相ゲッベルスから賞賛された『役者』（1941年）や『パラケルスス』（1943年）を制作。しかし、制作過程では体制との摩擦も生じました。戦後も映画制作を続け、『訴訟』（1948年）など、社会問題にも取り組んだ作品を手がけました。晩年はイタリアで映画制作を試みましたが、経済的な成功には恵まれず、西ドイツに戻って商業映画の制作に携わりました。

パープストの映画は、社会的なメッセージを込めた作品から、幻想的な世界を描いた作品まで多岐に渡り、その表現力と芸術性は高く評価されています。晩年は病に倒れましたが、1965年にはオーストリア政府から名誉教授の称号を授与されました。1967年、劇症肝炎のためウィーンで死去しました。彼の映画は、今日でも世界中の映画愛好家から高い評価を受け続けています。

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