ゲッツ/ジルベルト

『ゲッツ/ジルベルト』は、1964年に発表された、ジャズ・サックス奏者スタン・ゲッツとボサノヴァ歌手ジョアン・ジルベルトによる連名アルバムです。ボサノヴァの創始者の一人であるアントニオ・カルロス・ジョビンがピアノで参加し、ジョアンの妻であったアストラッド・ジルベルトが2曲でボーカルを務めたことでも知られています。

制作の背景

ゲッツは、1962年にチャーリー・バードとの共作『ジャズ・サンバ』でボサノヴァを取り入れ、大きな成功を収めました。その流れを受け、1963年に当時アメリカに滞在していたジョアン・ジルベルトとジョビンを迎え、本作を制作しました。プロデューサーはクリード・テイラー、レコーディング・エンジニアはフィル・ラモーンとヴァル・ヴァレンティンが担当しました。

異なるジャンルの音楽家が集まったため、レコーディングは必ずしもスムーズには進まなかったようです。ゲッツのボサノヴァに対する理解不足にジョアンが立腹し、ジョビンにゲッツを罵倒するように頼んだというエピソードも残っています。

アストラッド・ジルベルトのデビュー

本作は、アストラッド・ジルベルトが歌手としてデビューを飾った作品でもあります。「イパネマの娘」と「コルコヴァード」の2曲で、彼女の可憐な歌声が披露されています。ジョアンが全編ポルトガル語で歌う中、アストラッドは英語詞で歌い、その国際的な響きがアルバムの魅力を一層引き立てています。

ちなみに、「イパネマの娘」のシングルバージョンは、クリード・テイラーの判断でジョアンのボーカルパートがカットされ、アストラッドが単独で歌う形に編集されています。

ジャケットとカーネギー・ホール公演

ジャケットの絵は、プエルトリコ出身の画家オルガ・アルビズが手掛けました。また、1964年10月には、ゲッツとジョアンはカーネギー・ホールで公演を行いました。その模様はライブ・アルバム『ゲッツ/ジルベルト#2』として発表されていますが、実際には二人が共演した場面は少なかったようです。1975年には、ゲッツが再びジョアンを全面参加させたコラボレーション・アルバム『ゲッツ・ジルベルト・アゲイン』を録音しています。

評価と影響

『ゲッツ/ジルベルト』は、Billboard 200で2位を獲得する大ヒットとなり、「イパネマの娘」も全米5位にランクインしました。グラミー賞では、アルバムが最優秀アルバム賞と最優秀エンジニア賞、楽曲「デサフィナード」が最優秀インストゥルメンタル・ジャズ・パフォーマンス賞、そして「イパネマの娘」が最優秀レコード賞を受賞するという快挙を達成しました。

ボサノヴァの本質とは異なるとの声もありましたが、本作はアメリカにおけるボサノヴァブームを決定づけた作品として、音楽史にその名を刻んでいます。ローリング・ストーン誌の「歴史上最も偉大な500枚のアルバム」にも選出されています。

収録曲

Side 1
1. イパネマの娘 (The Girl from Ipanema)
2. ドラリセ (Doralice)
3. プラ・マシュカー・メウ・コラソン (Para Machucar Meu Coração)
4. デサフィナード (Desafinado)

Side 2
1. コルコヴァード (Corcovado)
2. ソ・ダンソ・サンバ (Só Danço Samba)
3. オ・グランジ・アモール (O Grande Amor)
4. ヴィヴォ・ソニャンド (Vivo Sonhando)

パーソネル

スタン・ゲッツ - テナー・サックス
ジョアン・ジルベルト - ギター、ボーカル
アントニオ・カルロス・ジョビン - ピアノ
セバスチャン・ネト - ベース
ミルトン・バナナ - ドラムス、パンデイロ
アストラッド・ジルベルト - ボーカル (A1, B1)

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