ゲツセマネの祈り (コレッジョ)

コレッジョ作『ゲツセマネの祈り



ルネサンス期のイタリア画家コレッジョが1524年頃に制作した油彩画『ゲツセマネの祈り』は、新約聖書に記されたキリストの受難前夜の祈りの場面を描いた作品です。この絵は、コレッジョの作品の中でも特に美しく、かつ希少なものとして知られています。現在はロンドンアプスリー・ハウスに所蔵されており、その準備素描は大英博物館に、質の高い複製がナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

主題


福音書によると、イエス・キリスト最後の晩餐の後、ペテロ、ヤコブ、ヨハネの3人の使徒を伴い、オリーブ山のゲツセマネの園で祈りを捧げました。キリストは、迫りくる裏切りと受難、そして死の運命を知り、深い苦悩の中にいました。彼は使徒たちに共に祈るように頼みましたが、彼らが眠ってしまう中、神に「この苦難の杯を避けてください」と懇願しました。しかし、最終的には神の意志を受け入れ、「御心が行われますように」と祈りました。この祈りを3度繰り返す間、使徒たちは眠り続けていました。その時、天使が現れ、キリストに力を与えたとされています。

作品の特徴


コレッジョは、この苦悩に満ちたキリストの姿を、夜明け前のドラマチックな明暗のコントラストで描き出しています。キリストはゲツセマネの園でひざまずき、神に救いを祈っています。画面左端にキリストと天使を配置するという大胆な構図が目を引きます。天使はキリストを慰めようとしますが、キリストは天使から目をそらし、天を見上げています。キリストの左右に開かれた両手は、天使との言葉のやり取りを示唆しています。また、キリスト自身が発する光は天使を照らし、遠方の山々を照らす夜明けの光よりも明るく、ヨハネによる福音書のキリストの言葉「私は世界の光です」を連想させます。一方、画面右側では、3人の使徒が眠りこけており、キリストの苦悩や天使との対話に気づいていません。この絵画の小ささから、個人的な礼拝のために制作されたことがわかります。

コレッジョは、アルブレヒト・デューラーの同主題の版画に影響を受けた可能性があります。デューラーは、感情的な表現でキリストの苦悩を描いており、このイメージはコレッジョに強く訴えかけたと考えられます。絵画の右側は火災で損傷し、切り落とされていますが、ナショナル・ギャラリーにある複製が、オリジナルの風景を明確に記録しています。アプスリー・ハウスのオリジナル版では、右側の眠る3人の使徒は暗くて見えませんでしたが、1949年から1950年の洗浄によって、複製同様に描かれていることが明らかになりました。また、後から追加されたユダとローマ兵士の人物像が削除されたことも判明しました。

来歴


美術評論家のジャン・パオロ・ロマッツォによると、コレッジョは4~5スクードの借金のかたに、この絵を薬屋に渡したとされています。その後、ミラノのピッロ・ヴィスコンティ伯爵に400~500スクードで売却されました。1650年代には、当時のスペインのミラノ総督であるカラセナ侯爵ルイス・デ・ベナヴィデス・カリージョが、ピッロ伯爵の子孫から750ドッピエで購入し、1666年までにスペイン国王フェリペ4世のコレクションに加えられました。1813年、ナポレオン政権下でスペイン王となったジョゼフ・ボナパルトは、ビトリアの戦いの際に、スペイン王室の絵画コレクションを国外に持ち出そうとしましたが、『ゲツセマネの祈り』もその中に含まれていました。しかし、他の絵画とともにジョセフ・ボナパルトの馬車から発見され、初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーによってスペイン国王フェルナンド7世に返還されました。フェルナンド7世は、この返還の謝礼として公爵に絵画を贈りました。イギリスに絵画が到着した際、王立アカデミーの学長ベンジャミン・ウェストは、この絵を「ダイヤモンドで縁取る」べきだと絶賛しました。

素描と複製


コレッジョの個人的な礼拝のための小型宗教画としては珍しく、準備素描が残っており、大英博物館に所蔵されています。そこには祈るキリストの姿が描かれています。また、ロンドンのナショナル・ギャラリーには、17世紀に制作された複製が所蔵されています。この複製は、イギリスの銀行家ジョン・ジュリアス・アンガースタインが所持していた絵画の一つで、1824年にナショナル・ギャラリー設立時に取得されました。アプスリー・ハウスのオリジナル版がロンドンに到着した後も、この複製はコレッジョの真作とみなされていました。



アプスリー・ハウス公式サイト, コレッジョゲツセマネの祈り』'>アプスリー・ハウス公式サイト, コレッジョゲツセマネの祈り
コレッジョゲツセマネの祈り』の複製'>ナショナル・ギャラリー公式サイト, コレッジョゲツセマネの祈り』の複製
大英博物館公式サイト, コレッジョゲツセマネの祈り』準備素描'>大英博物館公式サイト, コレッジョゲツセマネの祈り』準備素描

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。