ゲツセマネの祈り (ボッティチェッリ)

サンドロ・ボッティチェッリの「ゲツセマネの祈り」は、1495年から1500年頃に描かれたテンペラ画であり、ルカ福音書に記述されたイエス・キリストがゲツセマネの園で祈る姿を描いています。この作品は、ボッティチェッリの生涯で唯一イタリア国外に渡った作品であり、カスティーリャ女王イサベルのコレクションを経て、現在はグラナダ王室礼拝堂に所蔵されています。

この絵画の主題は、キリストが受難の直前に弟子たちと共にゲツセマネの園で祈る場面です。キリストは苦悶の中で血のような汗を流しながら祈り、天使が現れて犠牲の聖杯を授けます。絵画の下部には、キリストの復活を暗示する石棺が描かれています。オリーブの木々は、この復活のテーマを象徴的に表現しています。

この作品の構図は、同主題を描いたマンテーニャやベッリーニの作品とは大きく異なり、遠近法をあえて使わず、キリストのヒエラルキー上の重要性を示すために使徒たちよりも大きく描かれています。岩山の描写も作り物めいており、使徒たちの姿も解剖学的に正確ではありません。これらの特徴は、ボッティチェッリが晩年に回帰したプリミティヴィズムの表れであり、赤、黄、緑、青の原色を多用した色彩も特徴的です。

ボッティチェッリのこの様式の変化は、サヴォナローラへの傾倒と関連付けられており、1495年に出版されたサヴォナローラの『論考あるいは祈祷についての説教』の挿絵木版画と構図が酷似していることから、サヴォナローラの影響を受けて描かれた作品であると考えられます。

この作品は、単なる聖書の場面の描写を超えて、ボッティチェッリの芸術的な変遷と精神的な深みを映し出す重要な作品です。プリミティヴィズムへの回帰は、彼の芸術的探求の新たな局面を示し、この作品を特異な存在にしています。現在もグラナダ王室礼拝堂に所蔵されており、その独特な魅力で多くの人々を惹きつけています。

作品の詳細

主題: ゲツセマネの祈り
描かれている場面: キリストがゲツセマネの園で祈る様子、天使から聖杯を受け取る場面、復活を暗示する石棺
使徒: ペテロ、ヨハネ、ヤコブ（眠っている姿で描かれている）
特徴的な要素: 遠近法の否定、キリストの巨大な描写、作り物めいた岩山、原色を多用した色彩
様式: プリミティヴィズムへの回帰
制作年代: 1495-1500年頃
技法: 板にテンペラ
所蔵: グラナダ王室礼拝堂

関連情報

サヴォナローラの影響
プリミティヴィズム（原始主義的様式）
ルカ福音書22章
ボッティチェッリの生涯と作品

この絵画は、ボッティチェッリの晩年の芸術的変化を物語る重要な作品であり、宗教的なテーマを独特な視点で捉えた彼の才能を示すものです。ぜひ、この作品を通じて、ボッティチェッリの芸術世界に触れてみてください。

もう一度検索