ゲルシュタイン報告

ゲルシュタイン報告

ゲルシュタイン報告は、1945年に武装親衛隊の中尉であったクルト・ゲルシュタインによって書かれた報告書です。この報告書は、ナチス・ドイツによるホロコーストの実態を記録した貴重な証言として知られています。

報告書の執筆と内容

1945年4月22日、クルト・ゲルシュタインはロイトリンゲンでフランス軍の捕虜となりました。捕虜となった彼は、ネッカー河畔のロトヴァイルへと連行されます。ロトヴァイルにおいて、ゲルシュタインは4月26日からフランス語で、5月4日からはドイツ語で手記を書き始めました。これが、ゲルシュタイン報告として知られる文書群です。

ゲルシュタイン報告の内容は、ゲルシュタイン自身の簡単な経歴、ベウジェツおよびトレブリンカ絶滅収容所における虐殺の状況、そして、これらの虐殺を中立国に伝えようとした試みなどが記述されています。報告書には、デゲッシュ社への青酸発注書12通も同封されていました。

オディロ・グロボクニクから、ベウジェツ、トレブリンカ、ソビボル、マイダネクといった絶滅収容所における1日あたりの処理人数について説明を受け、大量の衣服の消毒命令や、より効率的なガス殺の遂行を命じられたことも記されています。ゲルシュタイン自身が、収容所における排気ガスを用いたガス殺の完了タイムをストップウォッチで計測する任務を担っていたことも、報告書の中で明らかにされています。

戦後の扱い

ゲルシュタイン報告は、ニュルンベルク裁判、およびニュルンベルク継続裁判の一つである医者裁判において、証拠として採用されました。ホロコーストの実態を明らかにする上で重要な役割を果たしたと評価されています。

ゲルシュタイン報告に対する批判

ゲルシュタイン報告は一般的に、ナチス・ドイツの絶滅収容所で起きた事実を正確に描写したものであると認識されています。しかし、記述内容には以下のような点において、信憑性に疑念が呈されています。

強制収容所に到着した輸送列車からユダヤ人を追い立てる様子について、「200人のウクライナ人が追い立てていた」という記述に関して、異常な状況下で「ウクライナ人」であることや「200人」という人数を冷静に観測できたのかという疑問。
虐殺されたユダヤ人の数を2500万人としている点について、誇張であるという指摘。
報告書に登場する人名に誤りと思われる記述が散見される点。
ガス室の規模に関して、25m²、45m³のガス室に700人から800人が収容されたという記述は、1m²あたり28人から32人、1m³あたり15人から18人が収容されていたことになり、非現実的であるという指摘。

これらの批判は、ゲルシュタイン報告の全体的な信憑性を否定するものではありませんが、個々の記述については注意深く検討する必要があることを示唆しています。

参考文献

ソール・フリートレンダー 著、石井良 訳『抵抗のアウトサイダー : クルト・ゲルシュタイン』産業行動研究所、1971年。doi:10.11501/12221458。
ジョウ・J.ハイデッカー、ヨハネス・レープ 著、森篤史 訳『ニュルンベルク裁判下巻1945-46』白水社、2023年。ISBN 978-4-560-09368-9。

関連項目

ナチス
ナチス・ドイツ
ホロコースト
ポーランドにおけるホロコースト
強制収容所
ニュルンベルク裁判
アドルフ・アイヒマン

外部リンク

クルト・ゲルシュタイン: 親衛隊のドイツ人スパイ（英語）
クルト・ゲルシュタイン、良心に打たれた親衛隊将校（英語）
ゲルシュタイン報告（ドイツ語）

もう一度検索