ゲルハルト・メルティンズ

ゲルハルト・ゲオルク・メルティンズ：軍人、実業家、そして武器商人

ゲルハルト・ゲオルク・メルティンズ（Gerhard Georg Mertins, 1919年12月30日 - 1993年3月19日）は、第二次世界大戦中にドイツ国防軍の降下猟兵として活躍し、戦後は実業家として兵器輸出に関わった人物です。その生涯は、軍事、政治、ビジネスが複雑に絡み合い、多くの議論と謎を呼んでいます。

軍人としてのキャリア

メルティンズは1919年にベルリンで生まれ、ナチス政権下で軍事教育を受けました。第二次世界大戦では、降下猟兵として数々の作戦に参加し、1943年9月にはベニート・ムッソリーニ救出作戦にも参加しました。彼は5回負傷しながらも戦い続け、その勇敢さを認められ、1944年には騎士鉄十字章を受章しました。敗戦時には降下猟兵少佐の階級にありました。

戦後の活動

敗戦後、メルティンズは高等商業学校を経て、フォルクスワーゲンで輸出業務に携わりました。その後、ブレーメンに移り、工業用品の卸売業やタクシー会社を経営する傍ら、メルセデスとの契約で中東やアフリカ向けの輸出事業も展開しました。

ブレーメンでは、元降下猟兵の戦友会「緑の悪魔」の会長を務め、ドイツの再軍備を支持する活動を行いました。また、ネオナチ団体とも協力し、ドイツ社会主義帝国党の支持者でもあったとされています。1951年にはエジプトに渡り、空挺部隊の教官として活動しました。この頃、彼はドイツの元軍人たちに、エジプト軍事顧問団への参加を呼びかけていました。

その後も、シリアやその他の国で軍事顧問や販売コンサルタントとして活動し、その活動は各国の諜報機関の関心を集めました。1956年にはドイツ連邦情報局（BND）に雇用され、「ウラヌス」というコードネームで活動を開始しました。

メレックスAGの設立と武器輸出

1963年、メルティンズはオットー・スコルツェニーと共に、スイスにメレックスAG（Merex AG）を設立しました。この会社は、ドイツ製兵器の輸出を専門とし、メルティンズは1965年にイラン秘密警察と協力関係を結び、BNDや他の西側諜報機関とも連携しながら、大規模な武器輸出を行いました。

特に、F-86セイバー戦闘機をパキスタンに販売した取引は、大きな波紋を呼びました。当時、国連はパキスタンへの武器禁輸措置を課していましたが、メルティンズはイランを経由して戦闘機をパキスタンに供給しました。この事件をきっかけに、メルティンズは国際的な武器商人として知られるようになりました。

メレックスAGは、インド、パキスタン、サウジアラビアなど、多くの国に武器を輸出しました。これらの取引は、紛争地域への武器供給につながるとして、大きな批判を浴びました。ドイツ政府は、メルティンズの行為を黙認していたと非難されました。

起訴と無罪判決

1970年代に入ると、ドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』が、メルティンズの武器輸出の実態を暴露しました。ボン検察庁は、メルティンズを違法な武器密輸で起訴しましたが、メルティンズの弁護士は、すべての取引がBNDや他の政府機関の合意の下で行われたと主張し、メルティンズはBNDの武器密輸計画の単なる歯車に過ぎないとしました。その結果、1980年にメルティンズは無罪となり、連邦政府から補償金を受け取りました。

その後の活動

メルティンズは、1967年にケーニヒスヴィンター近郊の邸宅を買い取り、ホテルやレストランに改装しました。また、1978年には、ドイツ系人居住地コロニア・ディグニダへの支援を目的とした団体を設立しました。

まとめ

ゲルハルト・ゲオルク・メルティンズは、軍人としての勇敢さ、実業家としての才覚、そして武器商人としての悪名が混ざり合った複雑な人物です。その生涯は、戦後のドイツ社会の暗部を映し出す鏡であり、歴史の中で様々な角度から議論され続けています。彼の活動は、国際的な紛争と深く関わっており、その責任は未だに問われ続けています。

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