コロニア・ディグニダ

コロニア・ディグニダ：チリの暗部

コロニア・ディグニダは、チリのマウレ州リナレス県パラルに存在した、ドイツ系移民を中心とした入植地の旧名称です。現在は「ビジャ・バビエラ」と呼ばれています。1961年に設立されたこの入植地は、一見すると秩序と清潔さに満ちた理想郷のように見えましたが、その内実は、元ナチス党員で小児性愛者のパウル・シェーファーが支配するカルト的な集団であり、長年にわたり、拷問、性的虐待、強制労働が繰り返されていました。

設立と概要

コロニア・ディグニダは、「尊厳慈善および教育協会」という名目で運営されていました。シェーファーは、キリスト教の教義をモデルにしたと主張しましたが、実際には聖書の教えを歪曲し、入植者たちを支配下に置きました。入植地では、家族は解体され、子供たちは親から引き離され、共同生活を強制されました。子供たちは、性的虐待の対象となり、6歳から無償の強制労働を強いられました。外部からの情報は遮断され、テレビや電話、カレンダーは禁止され、住民はバイエルンの農民の服を着て、ドイツの民謡を歌いながら働いていました。コロニアは、事実上、外部の法律が及ばない「国家の中の異国」と化していました。

人体実験と性的虐待

コロニアでは、子供に対する性的虐待が組織的に行われていました。シェーファーは、毎日3～4人の男の子を性的にもてあそび、抵抗する者には電気ショックなどの拷問を加えました。性的虐待はルーティン化されており、子供たちは助けを求めることができませんでした。脱出を試みた者は、捕らえられ、強制的に連れ戻されました。コロニアは、外部からの監視を逃れるため、鉄条網やセンサーで覆われ、外部の住民、軍、警察、ドイツ大使館とも結託していました。

資金源と武器隠匿

コロニアの経済活動は、表向きは農業でしたが、実際にはナチス残党の資金、武器売買、麻薬栽培など、様々な不正な手段で運営されていました。入植地には、武器や化学兵器の地下工場、滑走路、監視塔などが存在し、その規模は農業施設とは考えられないものでした。コロニアは、かつてアウシュヴィッツ強制収容所で人体実験を行っていた医師ヨーゼフ・メンゲレが一時潜伏していたという噂もありました。

軍事政権との関係

1973年、アウグスト・ピノチェトが率いる軍事政権が成立すると、コロニアはチリ政府との関係を強めました。コロニアは、軍事政権の秘密警察に捕まった政治犯を収容し、拷問する場所として利用され、少なくとも100人以上が殺害されたと考えられています。コロニアは、チリ国内の裁判所、議会、警察などに強力なネットワークを築き上げ、その存在は、容共、反共両派の政府からも黙認されていました。在チリ西ドイツ大使館も、コロニアと親密な関係を保っていました。

民政化後のコロニア

1990年代に入り、軍事政権が終焉を迎えると、コロニアの秘密が徐々に明らかになり始めました。1997年、シェーファーは少年への性的暴行容疑で起訴され、国外逃亡しました。2005年、シェーファーは逮捕され、懲役20年の判決を受けました。コロニアは、「ビジャ・バビエラ」と改名されましたが、現在もホテルとレストランとして営業を続けています。しかし、その過去の暗い歴史は消えることなく、いまだに行方不明者の家族による捜索活動が続いています。

コロニアの遺産

コロニア・ディグニダの存在は、人間がいかに悪に染まりやすいか、そして権力が腐敗を生むかを示す、痛ましい例です。この事件は、チリの歴史における暗部であり、決して忘れてはならない教訓を私たちに残しています。コロニアは、表面的な美しさで内部の腐敗を覆い隠していたのです。私たちは、このような悲劇を二度と繰り返さないために、過去の歴史から学び続けなければなりません。

この場所は現在、観光地として機能していますが、その裏には数多くの犠牲者の苦しみがあったことを忘れてはなりません。

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