ゲートウェイ (PCメーカー)

ゲートウェイの興亡：牛柄PCからエイサー傘下へ

ゲートウェイ（Gateway, Inc.）は、かつてアメリカを代表するパソコンメーカーでした。その歴史は、1985年の創業から2007年のエイサーによる買収まで、波乱に満ちたものでした。この記事では、ゲートウェイの設立から世界市場への進出、そして撤退と再参入、最終的なエイサーによる買収までを詳細に解説します。

起源：農場から生まれたパソコンメーカー

ゲートウェイは、1985年にテッド・ウェイトによってアイオワ州のスーシティ近郊の農場で設立されました。当初の社名は「Ted Waitt Company」で、牧場経営の精神を忘れないため、白黒の牛柄模様をトレードマークとして採用しました。設立当初は、ソフトウェアや周辺機器の販売を手がけていました。

1987年には、自社工場で組み立てたパソコンを直販する形態に移行し、「ゲートウェイ2000」（GATEWAY2000/略称：GW2K）と社名を変更しました。「21世紀への架け橋」という理念を掲げ、独自の販売戦略を展開しました。1989年には、「アイオワからコンピュータ？」というキャッチコピーと共に牧場の写真を使った広告が話題となり、アメリカ国内で広く知られるようになりました。

デルコンピュータと同様に、BTO（Build To Order）方式を採用し、在庫を抱えないことで最新のCPUを搭載した高性能パソコンを低価格で提供することを強みとし、急速に業績を拡大しました。1993年には、経済誌「フォーチュン」の「フォーチュン500」にランクインし、1997年にはニューヨーク証券取引所に上場を果たしました。同年には、中堅サーバメーカーのALR社を買収し、サーバ事業にも参入しました。

1998年には、社名を現在の「ゲートウェイ（Gateway Inc.）」に変更しました。最盛期には、アメリカ本国の他にアイルランドやマレーシアにも生産工場を持ち、アメリカ国内のシェアはデルやコンパックに次ぐ第3位、世界市場では第5位にまで上り詰めました。

日本市場への進出と撤退

1995年9月、ゲートウェイは世界第2位のパソコン市場である日本に進出しました。日本法人「日本ゲートウェイ弐千株式会社」（後に日本ゲートウェイ株式会社に改称）を設立し、個人向けには本国と同様の直販方式を採用し、直営店「ゲートウェイカントリー」を展開しました。法人向けには、三菱電機や富士電機などのベンダー経由でパソコンやサーバを販売しました。

伊東美咲やEvery Little Thingを起用したテレビCMや雑誌広告など、派手な広告戦略を展開し、フリーペーパーの発行やシティカードとの提携クレジットカードの発行など、多角的な販売戦略で顧客の獲得に努めました。また、「日経パソコン」誌のパソコンメーカーサポートランキングで3年連続1位を獲得するなど、ユーザーサポートの質の高さが評価されました。BTO方式による高性能パソコンの低価格での提供は、特にハイエンドユーザーからの支持を集めました。

ゲートウェイのパソコンは、購入時に牛柄の箱で届けられたり、起動時に牛の絵が表示されたりしたため、「牛」「牛パソ」などの愛称で親しまれました。

しかし、競争激化により2000年頃からアメリカ本社の経営が悪化し、2001年初頭から世界的に事業縮小が噂されるようになりました。そして、同年8月、日本、シンガポール、イギリス、オーストラリアなどの国際市場から突然撤退を発表し、アイルランドとマレーシアの生産工場を閉鎖しました。この大規模リストラにより、全世界の従業員の25％が削減されました。撤退の正式発表は、実際に撤退する数日前であったため、顧客に大きな混乱を引き起こし、ITバブル崩壊の象徴的な出来事として報道されました。日本市場では、デルコンピュータとの熾烈な価格競争がパソコン価格の低下に大きな影響を与えたため、多くのユーザーがゲートウェイの撤退を惜しみました。

日本撤退後は、米Vsource社に顧客サポート業務が引き継がれました。

eMachines買収と日本再進出

その後、ゲートウェイはアメリカ国内のみで事業を展開し、液晶テレビなどの周辺機器の販売にも力を入れましたが、パソコン本体のシェアは減少の一途を辿りました。2004年1月30日には、低価格パソコンメーカーのeMachines社を買収し、eMachinesの上位モデルとしてゲートウェイブランドのパソコンを販売しました。

2004年12月には、eMachinesの流通網を利用して日本市場に再参入し、PC専業メーカーとして「Gateway」と「eMachines」の2つのブランドを展開しました。以前はインテルとの連携が強かったものの、買収後はAMDとの連携も深めました。

2006年には、アメリカでHP/コンパック、デルに次ぐ第3位のPC出荷台数を誇り、世界規模でも常にトップ10に入るなど、世界的なパソコンメーカーとしてその名を維持しました。合併後は、通信販売よりも店頭販売を重視し、一般消費者をターゲットとする戦略を展開しました。この戦略により、2001年の撤退時の悪い印象を払拭し、再び日本市場でシェアを伸ばすことに成功しました。

エイサーによる買収とブランドの終焉

2007年8月27日、ゲートウェイは台湾のパソコンメーカー大手であるエイサーにより、約7億1000万ドルで買収されることに合意しました。10月8日には買収が完了し、エイサーの子会社となりました。そして2009年1月1日、ゲートウェイはエイサーに吸収合併され、法人格は消滅し、ブランド名のみが残ることになりました。

主な機種

エイサーによる買収後のモデル

デスクトップ：FX6800シリーズ、DX4800シリーズ、DX4700シリーズ、DX4300シリーズ、LX4800シリーズ、LX4200シリーズ、SX2800シリーズ、SX2300シリーズ、SX2995シリーズ
液晶一体型デスクトップ：ZX6800シリーズ、ZX2300シリーズ
ノートブック：NV59Cシリーズ、NV57Hシリーズ、NV55Cシリーズ、NV53Aシリーズ、NV5900シリーズ、NV4400シリーズ、ID59Cシリーズ、EC39Cシリーズ、EC19Cシリーズ、EC3800シリーズ、TC7200シリーズ、MD7800シリーズ、MD2600シリーズ、P7900FXシリーズ
ネットブック：LT23シリーズ、LT1000シリーズ

日本市場再参入からのモデル

デスクトップ：FX7000シリーズ、DX4200シリーズ、DX2700シリーズ、GT5000シリーズ、GT4000シリーズ、GX7000シリーズ、700JPシリーズ、600JPシリーズ
ノートブック：P-7800FXシリーズ、P-6800FXシリーズ、M-7800シリーズ、M-6800シリーズ、M-2400シリーズ、M-1600シリーズ、M-1400シリーズ、T-1400シリーズ、ML6000シリーズ、MT6800シリーズ、MT6200シリーズ、MT6000シリーズ、MP8700シリーズ、MP6900シリーズ、MX8700シリーズ、MX7500シリーズ、MX6900シリーズ、MX6600シリーズ、MX6200シリーズ、MX6100シリーズ、MX3300シリーズ、MX3100シリーズ、MX1000シリーズ、7400JPシリーズ、6800JPシリーズ、4500JPシリーズ、4000JPシリーズ、3500JPシリーズ

日本市場撤退までのモデル（2001年8月以前）

ノートブック：Solo 1150、Solo 2100、Solo 2200、Solo 2150、Solo 2300、Solo 2500、Solo 3100/3150、Solo 3300/3350、Solo 3400/3450、Solo 5100/5150、Solo 5300、Solo 9100、Solo 9300
液晶一体型デスクトップ：PROFILE、PROFILE 1.5、PROFILE 1.8、PROFILE 2.0
画面一体型デスクトップ：Neo
デスクトップ：Essential、Select、Select Pro、PERFORMANCE JS、PERFORMANCE 850、G7、GP7、G6、GP6、GP5、E-1400、E-1600、E-3200、E-4400、E-5200、E-5400
* サーバ：6400、7400、7450R、ALR8200、ALR7200

まとめ

ゲートウェイは、1985年の設立から2007年のエイサーによる買収まで、数々の変遷を遂げたパソコンメーカーでした。その歴史は、アメリカ市場での成功、日本市場への進出と撤退、そして再参入と、波乱に満ちていました。特に、牛柄のロゴやBTO方式による直販は、多くのパソコンユーザーに印象を残しました。現在、ゲートウェイのブランド名はエイサーに引き継がれていますが、その歴史はパソコン業界における重要な一部として語り継がれています。

もう一度検索