コンパック

コンパック・コンピュータ・コーポレーション：PC業界に革命を起こした企業の興亡

コンパック・コンピュータ・コーポレーション（Compaq Computer Corporation）は、1982年、テキサス・インスツルメンツ出身のロッド・キャニオン、ジム・ハリス、ビル・マートらによって設立されたパーソナルコンピュータ（PC）メーカーです。彼らはIBM PC互換機を低価格で提供するという革新的なビジネスモデルを打ち出し、瞬く間に業界のトップに躍り出ました。

創業と初期の成功

創業初期、コンパックはIBM PCと互換性のあるポータブルPC「Compaq Portable」を開発・発売しました。これは、IBM PCと同等の機能を持ちながら、持ち運び可能な点が画期的でした。1983年の発売時には、競合他社製品よりはるかに低価格であったことも、大きな成功要因となりました。この成功の裏には、クリーンルーム設計による独自のBIOS開発という、IBMの特許を回避する戦略がありました。この革新的なアプローチは、後に多くのPCメーカーがIBM互換機を製造する道を切り開きました。

その後も、デスクトップPC「Compaq Deskpro」シリーズや、先進的な技術を搭載した「Compaq Deskpro 386」「Compaq SystemPro」など、数々の画期的な製品をリリースし続け、市場でのシェアを拡大していきました。特に「Compaq Deskpro 386」は、当時IBMがまだ80386プロセッサを搭載したPCを発売していなかったため、技術と市場をリードする存在となりました。

急成長と経営刷新

1980年代後半から1990年代にかけて、コンパックは目覚ましい成長を遂げました。しかし、低価格路線をとるデルなどの競合他社の台頭を受け、1991年には創業者であるロッド・キャニオンがCEOの座を追われるという経営刷新が行われました。その後、エッカード・ファイファーがCEOに就任し、積極的な買収戦略や低価格路線によって市場シェアの拡大を図りました。

ファイファーCEO時代には、タンデムコンピューターズやディジタル・イクイップメント・コーポレーション（DEC）といった大手企業を買収し、規模を拡大しました。しかし、買収による企業文化の融合がうまくいかず、経営は混乱を極めます。

1990年代半ばには、低価格PC「Presario」シリーズを投入し、低価格市場でも大きな成功を収めました。価格競争を繰り広げる中で、AMDやCyrixといった他社製のマイクロプロセッサを採用するなど、積極的な戦略をとる一方、優れた在庫管理と粗利益率によって競争優位性を維持していました。1994年には、世界シェアでアップルを抜き、IBMをも上回るトップメーカーとなりました。

衰退とHPによる買収

しかし、ファイファーの後、CEOに就任したマイケル・カペラスの下でも、デルとの激しい競争やインターネットバブルの崩壊などの影響を受け、業績は低迷。2001年にはデルに世界首位の座を奪われ、2002年にはヒューレット・パッカード（HP）に約250億ドルで買収されることとなりました。この買収は、HPの株主の間で激しい議論を巻き起こしました。HPは、コンパック買収による規模拡大で市場競争力を高められると主張しましたが、反対派はPC事業の低収益性や企業文化の相違点を懸念していました。

合併後とコンパックブランド

HPに買収された後も、Compaqブランドはしばらくの間、PCやサーバ製品に使用され続けました。「Presario」シリーズや「ProLiant」サーバなど、多くの製品がコンパックブランドとして販売されましたが、徐々にHPブランドに統合され、2013年には完全に消滅しました。

日本市場におけるコンパック・ショック

日本市場においても、コンパックは大きなインパクトを与えました。1992年の日本法人設立後、低価格なDOS/V|DOS_V互換機を発売し、それまでNECのPC-9800シリーズが独占状態にあった市場に大きな変化をもたらしました。この出来事は「コンパック・ショック」と呼ばれ、日本のPC市場の競争激化とAT互換機の普及を加速させました。

まとめ

コンパック・コンピュータは、革新的な技術と積極的な経営戦略でPC業界に大きな影響を与えた企業です。短期間で世界最大のPCメーカーに上り詰めたものの、激しい競争と経営上の課題により、最終的にHPに吸収合併されました。その歴史は、PC業界の進化と企業の盛衰を象徴するものです。

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