コスモス133号
ソユーズ宇宙船が完成し、人類を宇宙へ運ぶ有人飛行を行う前に必須とされたのが、一連の無人試験飛行でした。ソ連は1966年、この重要なステップとして、2機の無人ソユーズ宇宙船を連続して打ち上げ、軌道上で rendezvous (ランデブー) し、最終的にドッキングさせるという野心的な計画を立案します。その第一号機として選ばれたのが、コスモス133号（Космос-133）でした。
1966年11月28日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、ソユーズ11A511ロケットによってコスモス133号は宇宙へと旅立ちました。内部には、将来の宇宙飛行士の代わりに宇宙服を着せられたマネキンが収められていました。打ち上げ自体は順調に進み、宇宙船は無事、所定の地球周回軌道に乗せられました。しかし、その数時間後、事態は急変します。宇宙船の姿勢を正確に制御するためのシステムに異常が発生し、重要な推進剤が想定を遥かに超える速度で失われていったのです。このトラブルにより、軌道上での精密な姿勢制御が不可能となり、翌日に予定されていた後続機（2機目）とのドッキングという主要なミッション目標は達成不可能となりました。このため、2機目の打ち上げも急遽延期されることになりました。
姿勢制御能力を喪失したコスモス133号は、やがて軌道を保てなくなり、数日のうちに制御不能のまま地球へ落下する危険性が生じました。ソ連政府は、機体の大部分を自国領内（カザフスタン南部の目標エリア）で回収するため、宇宙船の制御をどうにか取り戻そうと試みました。そして11月30日、宇宙船は逆噴射を行い、軌道から離れて大気圏へ突入するプロセスに入りました。しかし、不安定な姿勢での噴射であったため、大気圏突入のコースは大きく狂ってしまいました。帰還カプセルは当初の着陸予定地点から大きく外れ、行方不明となりました。広範囲にわたる捜索活動が行われましたが、ついにカプセルを発見することはできませんでした。
後日、詳細なレーダー追跡データの分析によって、帰還カプセルがなぜ見つからなかったのかが明らかになりました。カプセルは予定コースを大きく逸脱し、他国、特に中国の領空へ向かう軌道に乗っていたことが判明したのです。機密保持のため、ソ連の無人宇宙船には、敵対国の領土に落下する危険が生じた場合に備え、搭載された自爆システムが作動する設計となっていました。コスモス133号の帰還カプセルもこのシステムが作動し、搭載されていたTNT火薬によって空中で爆破、消滅したと考えられています。この自爆システムは、宇宙飛行士を乗せる有人機には搭載されない、無人機ならではの機構でした。
コスモス133号が大気圏に突入した11月30日の夜、遠く離れた日本でも、その最期を示す現象が観測されていました。日本時間20時40分過ぎ、西日本の上空に突如として明るい火球が出現したのです。和歌山県の中学生や京都市の高校生による詳細な観測記録が収集され、これらのデータから火球の正確な軌道が算出されました。著名な天文学者である冨田弘一郎氏は、この軌道を分析し、それがコスモス133号の崩壊に伴うものであることを突き止めました。目撃者のスケッチには、二つの明るい光点（機械船と軌道船に相当するとみられる）と、太陽電池パネル由来と思われる数個の小さな光点が描かれていました。また、京都で撮影された写真には、それらの後方を飛行する、比較的暗い物体（これは帰還カプセルだったと考えられている）が写り込んでいました。これらの記録は、宇宙船が大気圏突入時に複数の部分に分解した様子を鮮やかに捉えています。
コスモス133号の失敗に続き、1966年12月14日には、トラブルを受けて延期されていた2機目の無人ソユーズ（後のコスモス140号につながる機体）の打ち上げも失敗に終わりました。発射ロケットのブースターエンジンの一つが点火せず、ロケットは発射台を離れることができませんでした。さらに悲劇は続きます。エンジンが停止した後、ロケットを安全に降ろす作業中に、宇宙船の緊急脱出ロケットが誤って点火されたのです。これにより、燃料を積んだロケット本体に引火し、大規模な爆発事故が発生しました。この事故で複数の作業員が負傷し、バイコヌール宇宙基地の主要な発射台の一つである31番射点は完全に破壊されてしまいました。これにより、ソユーズ計画全体のスケジュールに大きな遅延が生じました。この時期、ソ連はアメリカとの熾烈な月着陸競争の真っただ中にあり、度重なる失敗とそれに伴う計画の遅延は、ソ連首脳部に強い焦りをもたらしたと考えられています。この焦りが、後のソユーズ1号の拙速な打ち上げ判断につながり、宇宙飛行士ウラジーミル・コマロフ氏の死亡という悲劇的な事故の間接的な遠因となったとも指摘されています。コスモス133号とその関連の失敗は、ソユーズ宇宙船が有人飛行を実現するまでの道のりがいかに困難であり、多くの試練を乗り越える必要があったかを物語る出来事でした。
1966年11月28日、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、ソユーズ11A511ロケットによってコスモス133号は宇宙へと旅立ちました。内部には、将来の宇宙飛行士の代わりに宇宙服を着せられたマネキンが収められていました。打ち上げ自体は順調に進み、宇宙船は無事、所定の地球周回軌道に乗せられました。しかし、その数時間後、事態は急変します。宇宙船の姿勢を正確に制御するためのシステムに異常が発生し、重要な推進剤が想定を遥かに超える速度で失われていったのです。このトラブルにより、軌道上での精密な姿勢制御が不可能となり、翌日に予定されていた後続機（2機目）とのドッキングという主要なミッション目標は達成不可能となりました。このため、2機目の打ち上げも急遽延期されることになりました。
姿勢制御能力を喪失したコスモス133号は、やがて軌道を保てなくなり、数日のうちに制御不能のまま地球へ落下する危険性が生じました。ソ連政府は、機体の大部分を自国領内（カザフスタン南部の目標エリア）で回収するため、宇宙船の制御をどうにか取り戻そうと試みました。そして11月30日、宇宙船は逆噴射を行い、軌道から離れて大気圏へ突入するプロセスに入りました。しかし、不安定な姿勢での噴射であったため、大気圏突入のコースは大きく狂ってしまいました。帰還カプセルは当初の着陸予定地点から大きく外れ、行方不明となりました。広範囲にわたる捜索活動が行われましたが、ついにカプセルを発見することはできませんでした。
後日、詳細なレーダー追跡データの分析によって、帰還カプセルがなぜ見つからなかったのかが明らかになりました。カプセルは予定コースを大きく逸脱し、他国、特に中国の領空へ向かう軌道に乗っていたことが判明したのです。機密保持のため、ソ連の無人宇宙船には、敵対国の領土に落下する危険が生じた場合に備え、搭載された自爆システムが作動する設計となっていました。コスモス133号の帰還カプセルもこのシステムが作動し、搭載されていたTNT火薬によって空中で爆破、消滅したと考えられています。この自爆システムは、宇宙飛行士を乗せる有人機には搭載されない、無人機ならではの機構でした。
コスモス133号が大気圏に突入した11月30日の夜、遠く離れた日本でも、その最期を示す現象が観測されていました。日本時間20時40分過ぎ、西日本の上空に突如として明るい火球が出現したのです。和歌山県の中学生や京都市の高校生による詳細な観測記録が収集され、これらのデータから火球の正確な軌道が算出されました。著名な天文学者である冨田弘一郎氏は、この軌道を分析し、それがコスモス133号の崩壊に伴うものであることを突き止めました。目撃者のスケッチには、二つの明るい光点（機械船と軌道船に相当するとみられる）と、太陽電池パネル由来と思われる数個の小さな光点が描かれていました。また、京都で撮影された写真には、それらの後方を飛行する、比較的暗い物体（これは帰還カプセルだったと考えられている）が写り込んでいました。これらの記録は、宇宙船が大気圏突入時に複数の部分に分解した様子を鮮やかに捉えています。
コスモス133号の失敗に続き、1966年12月14日には、トラブルを受けて延期されていた2機目の無人ソユーズ（後のコスモス140号につながる機体）の打ち上げも失敗に終わりました。発射ロケットのブースターエンジンの一つが点火せず、ロケットは発射台を離れることができませんでした。さらに悲劇は続きます。エンジンが停止した後、ロケットを安全に降ろす作業中に、宇宙船の緊急脱出ロケットが誤って点火されたのです。これにより、燃料を積んだロケット本体に引火し、大規模な爆発事故が発生しました。この事故で複数の作業員が負傷し、バイコヌール宇宙基地の主要な発射台の一つである31番射点は完全に破壊されてしまいました。これにより、ソユーズ計画全体のスケジュールに大きな遅延が生じました。この時期、ソ連はアメリカとの熾烈な月着陸競争の真っただ中にあり、度重なる失敗とそれに伴う計画の遅延は、ソ連首脳部に強い焦りをもたらしたと考えられています。この焦りが、後のソユーズ1号の拙速な打ち上げ判断につながり、宇宙飛行士ウラジーミル・コマロフ氏の死亡という悲劇的な事故の間接的な遠因となったとも指摘されています。コスモス133号とその関連の失敗は、ソユーズ宇宙船が有人飛行を実現するまでの道のりがいかに困難であり、多くの試練を乗り越える必要があったかを物語る出来事でした。
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