コスモス1686号

コスモス1686号（Kosmos 1686）

コスモス1686号は、1985年にソビエト連邦によって軌道に投入された宇宙ステーションへの補給船です。これは、旧ソ連が開発した大型宇宙船TKS（輸送・補給船）の4度目の飛行であり、中でも3回目の補給ミッションとして位置づけられています。

設計と特徴

コスモス1686号は、重量約18トンにも及ぶ大型のTKS宇宙船の設計に基づいています。TKSは、乗員が搭乗して地上に帰還するためのVA（宇宙機）カプセルと、大量の貨物や機材を搭載できる大型のFGB（機能貨物ブロック）モジュールから構成されていました。もともとTKSは、秘密裏に進められていた軍事宇宙ステーションであるアルマース計画のために開発されたものですが、同計画の縮小・キャンセルに伴い、サリュート計画における宇宙ステーションへの補給やモジュールとしての機能を提供する目的で活用されることになりました。TKSは技術的には有人宇宙船としての能力を持っていましたが、実際に人が乗り込んで打ち上げられることはありませんでした。

コスモス1686号には、一つ前の飛行機体であるコスモス1443号（1983年）との重要な設計上の違いがありました。この機体は、そのミッション終了後に接続先のサリュート7号宇宙ステーションと一体となって大気圏へ再突入・焼却される計画であったため、乗員や貨物を地上へ帰還させるためのVAカプセルは不要となりました。そこで、このVAカプセル部分はスペクトル計や赤外線望遠鏡といった観測機器を備えた観測モジュールへと改造されました。これにより、サリュート7号にドッキングしている間、科学観測を行う能力が付加されました。

飛行の軌跡

コスモス1686号は、1985年9月27日に現在のカザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、強力なプロトンロケットによって無人の状態で打ち上げられました。打ち上げから5日後の同年10月2日、すでに地球軌道上にあったサリュート7号宇宙ステーションとのドッキングに成功しました。この時、サリュート7号にはソユーズT-14ミッションの宇宙飛行士たちが滞在しており、彼らがコスモス1686号が運んできた約4.5トンに及ぶ膨大な物資の荷下ろしを行いました。

その後、ソユーズT-14の宇宙飛行士は1985年11月21日に地球へ帰還し、サリュート7号は一時的に無人状態となりました。1986年5月6日には、サリュート7号での最後の有人ミッションとなるソユーズT-15の宇宙飛行士が訪れ、6月25日まで滞在しましたが、コスモス1686号はこの期間中もサリュート7号にドッキングしたままでした。彼らが帰還した後、1986年8月にはコスモス1686号のエンジンが噴射され、サリュート7号全体の軌道高度を約475kmまで引き上げる操作が行われました。これは、大気抵抗による軌道低下を遅らせ、サリュート7号の運用寿命を少しでも延ばすための試みでした。しかし、その後も大気抵抗による軌道低下は続き、徐々に高度を失っていきました。

ミッションの終焉とTKS計画の最後

コスモス1686号は、ドッキングしたままのサリュート7号とともに、1991年2月7日に地球の大気圏に再突入しました。軌道計算の誤差や大気密度の予測とのずれにより、制御された落下ではなく、南米アルゼンチンの上空で燃え尽きることとなりました。

コスモス1686号はTKS宇宙船としては4回目の飛行であり、先行するミッションとしては1983年4月のコスモス1443号がありました。このコスモス1686号をもって、純粋な補給船またはモジュールとして設計されたTKSによる宇宙飛行ミッションは一区切りとなりました。ただし、TKSの設計思想や技術は、1987年3月に打ち上げられた宇宙ステーション・ミール用の拡張モジュールであるクバント1などにも引き継がれています。

関連する出来事：謎の発光飛翔体

コスモス1686号の打ち上げに関連して、特筆すべき出来事があります。打ち上げから間もない1985年10月8日夕刻、日本時間19時53分頃に関東地方から四国地方にかけて、空をゆっくりと移動する明るい発光体が多数目撃され、大きな話題となりました。この飛翔体は、当時兵庫県の甲子園球場で開催されていたプロ野球・阪神タイガース対ヤクルトスワローズ戦のテレビ中継カメラにも偶然捉えられ、多くの人がその姿を目にしました。後の解析により、この正体はコスモス1686号を軌道に投入したプロトンロケットの第4段やフェアリングといった上段モジュールが、大気圏に再突入する際に燃焼したものである可能性が非常に高いとされています。宇宙開発活動が、時に地上で予期せぬ形で注目を集める一例となりました。

コスモス1686号は、TKSという独特の宇宙船の最終機として、またサリュート7号の最後の滞在を支え、その終焉を共にした機体として、ソ連の宇宙開発史において重要な役割を果たしました。

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