コソボ地位問題

コソボ地位問題とは

コソボ地位問題は、セルビアの領土から国際連合の暫定統治下におかれたコソボの、最終的な国際法上の地位を確定する問題です。2007年末に地位をめぐる交渉が決裂し、2008年2月にコソボが一方的に独立を宣言したことで、事実上、地位プロセスは終了しました。

概要

1991年、コソボはユーゴスラビアからの独立を宣言しましたが、国際的な承認は限定的でした。1999年のコソボ紛争後、国連安全保障理事会決議1244号に基づき、セルビア軍は撤退し、国際連合コソボ暫定行政ミッション（UNMIK）による暫定統治が始まりました。決議1244号はセルビアの領土的一体性を明記していましたが、コソボは事実上セルビアの支配から離れました。コソボの地位問題は、この国連統治後、自治領としてセルビアに戻るか、独立国となるかを決定する国際問題です。

経緯

「地位の前に水準」政策

UNMIK統治下では、コソボの最終的な地位は未定とされ、地位確定よりも民主的諸制度の整備（「コソボ水準」）を優先する「地位の前に水準」政策が採用されました。

アハティサーリ特使による仲介

2004年、アルバニア系住民による大規模な暴動が発生し、西側諸国は地位の早期確定の必要性を認識しました。2005年、マルッティ・アハティサーリが国連コソボ特別大使に任命され、包括的解決案の取りまとめを開始しました。2007年2月、アハティサーリ特使はセルビアに包括的解決案を提示しましたが、拒否されました。この案は、名目上は独立承認ではないものの、事実上独立を示す内容でした。

国連安保理での議論とトロイカ仲介プロセス

国連安全保障理事会では、米欧がアハティサーリ案を支持しようとしましたが、ロシアが反対し、新決議の採択は実現しませんでした。その後、米欧露の特使によるトロイカ仲介プロセスが開始されましたが、当事者間の溝は埋まらず、2007年12月に終了しました。

独立宣言

新たな決議が採択されないまま国連統治が続けば、コソボの不安定化が懸念されました。2007年11月の議会選挙で、独立を主張するコソボ民主党が第一党となり、主要西側諸国が独立を容認する姿勢を示したことを受け、2008年2月17日、コソボ議会は独立を宣言しました。セルビアは独立に反対し、宣言の無効を主張しました。

コソボの独立は、国連安保理決議1244号には含まれておらず、国際法上の疑義があります。地域の安定を優先する立場と、国際法上の疑義から反対する立場が存在します。

独立宣言（2008年）後

独立宣言後、欧米を中心にコソボを国家承認する国が増加しましたが、国際法上の疑義や分離独立運動への影響を懸念し、承認に反対する国も少なくありません。セルビアでは、コソボ問題への対応から与党が分裂し、議会選挙が行われました。

国境線不変更の原則を侵してのコソボの独立は、他地域の独立運動を先鋭化させる可能性も指摘されています。ボスニア・ヘルツェゴビナのスルプスカ共和国は、「コソボの独立が認められるならば、スルプスカ共和国も独立の権利を有する」との決議をしました。

2009年6月時点で、60カ国がコソボの独立を承認していますが、ロシアや中国は反対または慎重な姿勢を示しています。2010年7月、国際司法裁判所はコソボの独立宣言は国際法に違反しないとの見解を示しましたが、法的拘束力はありません。

見解の相違

国際法上の見解

国連安保理決議1244号は、セルビアの領土的一体性に言及しており、コソボの独立を認める条文はありません。コソボの独立を支持する側は、決議に独立を禁止する条文もないと主張しています。

地域の安定化と紛争解決の手法として

国境線不変更の原則を無視することは、今後の国際紛争の火種になるとの主張があります。コソボ独立を支持する立場からは、コソボが長期にわたり不安定な状態に置かれていたことを重視し、独立を是認せざるを得ないと考えられています。

一方、反対派は、セルビアの統治能力は内政問題であり、他国が主権を侵害することは他地域の独立運動を触発すると警告しています。南オセチア紛争やクリミア併合など、コソボ独立が前例として利用される事例も発生しています。

民族的・文化的権利、人権に関して

コソボ独立賛成派は、包括的解決案がセルビア系住民の権利を保護すると主張しています。しかし、反対派は、セルビア人に対する保護は不十分であり、難民の帰還が進んでいないと批判しています。

アルバニア人の人権はすでに保護されており、セルビア政府もコソボに「自治以上、独立未満」を与える用意があるとして、独立反対派はコソボ独立の正当性を否定しています。

大アルバニア主義への懸念

大アルバニア主義は、アルバニア国外のアルバニア人居住地域をアルバニアへ統合する民族統一主義であり、周辺国にとって脅威となっています。コソボ政府はアルバニアとの連合を否定していますが、コソボの独立運動はアルバニア人による民族統一主義の一端にすぎないとの見方もあります。

コソボ独立に刺激を受け、北マケドニアやモンテネグロなどのアルバニア人地域を巻き込んでの大アルバニア主義の台頭が懸念されています。

関連項目

KFOR
国際文民事務所

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