コックサッカー・ブルース

ローリング・ストーンズのタブー: 『コックサッカー・ブルース』の真実

ローリング・ストーンズは、ロック史に燦然と輝く伝説的バンドです。数々の名曲を世に送り出し、幾多の伝説を作り上げてきました。しかし、彼らの歴史には、表舞台には決して出ることのなかった、闇の部分も存在します。その象徴とも言えるのが、『コックサッカー・ブルース (Cocksucker Blues)』です。これは、未発表の楽曲であり、同時に未発表のドキュメンタリー映画のタイトルでもあります。

忌まわしき楽曲：「コックサッカー・ブルース」

1971年、ストーンズはデッカ・レコードとの契約を解消しようとしていました。契約解消を目前に、彼らはデッカへの「最後の贈り物」として「コックサッカー・ブルース」を提供しました。しかし、この楽曲の歌詞は極めて性的で、当時の倫理観では到底許容されるものではありませんでした。結果、楽曲は発売されることなくお蔵入りとなりました。

その背景には、ストーンズとデッカ、そして元マネージャーのアラン・クレイン、彼の会社アブコ・レコードとの間の、複雑な契約問題がありました。ストーンズは契約に不満を抱いており、「コックサッカー・ブルース」は、一種の反発、意趣返しとして制作されたのかもしれません。その後、様々なブートレグを通して、この問題作は世に知られることとなります。興味深いのは、1983年にドイツ・デッカがリリースしたアルバム『the rest of the best』に「Cocksucker Blues / Brown Sugar」の7インチシングルが収録されたことです。この行為は、当時のタブーと戦った勇気ある挑戦だったと考えることもできますし、単なる商業的な思惑だったと考えることもできます。

禁断の記録映画：1972年北米ツアー

一方、『コックサッカー・ブルース』というタイトルのドキュメンタリー映画は、ロバート・フランク監督によって制作されました。1972年、オルタモント・スピードウェイでの悲劇以来となる北米ツアーを追った作品です。このツアーは、予想通りエネルギッシュなライブが連日繰り広げられましたが、映画では舞台裏のストーンズの姿が赤裸々に映し出されています。メンバーの奔放な私生活、薬物乱用、女性との関係など、バンドのダークサイドが容赦なく記録されています。

撮影手法もユニークで、フランク監督は複数のカメラを設置し、誰でも自由に撮影できるようにしました。その結果、観客は楽屋でのパーティ、メンバーの麻薬使用、ローディーたちの悪ふざけ、グルーピーとの乱痴気騒ぎなどを目撃することとなります。しかし、この映画は、バンドの非合法行為を記録しているとして、裁判所の命令によって上映禁止となりました。それでもなお、様々なブートレグが出回り、本作は伝説のドキュメンタリーとして語り継がれることになります。

ミック・ジャガーは、この映画について、「ライブの模様をもっと多く収めてほしかったのに、監督のロバート・フランクが勝手に編集したのが気に入らなかった」と語っています(2008年12月のインタビュー)。これは、フランク監督の独創的な編集が、ストーンズの意図とは異なるものになってしまったことを示唆していると言えるでしょう。

まとめ：封印された真実

『コックサッカー・ブルース』は、ローリング・ストーンズの輝かしい成功の裏側にある、忌まわしくも魅力的な影の部分を照らし出しています。楽曲と映画、どちらも過激な内容ゆえに世に出ることがありませんでしたが、その存在は、ロック史における一つのタブーと、バンドの複雑な側面を深く理解する上で、欠かせない要素となっています。ブートレグを通して伝わる彼らの真実、そしてその封印された物語は、これからも多くのロックファンを魅了し続けることでしょう。

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