コブラー

コブラー：多様な味わいと歴史を持つ焼き菓子

コブラーは、イギリスやアメリカ合衆国を中心に愛される焼き菓子です。大きな耐熱皿に、甘味または塩味の具材を敷き詰め、その上に液状の生地をかけ、あるいはビスケットやダンプリング状の生地で覆ってオーブンで焼き上げます。アメリカ南部では、パイ生地で上下を挟んだ深皿パイのようなタイプも一般的です。

歴史と起源

コブラーの起源は、英領北米植民地時代にまで遡ります。当時の入植者たちは、限られた食材と調理器具の中で、伝統的な英国菓子であるスエットプディングを作るのが困難でした。そこで、工夫を凝らし、シンプルなビスケット生地を煮込んだ具材の上に並べて焼く方法を考案したのです。この簡素ながらも味わい深い焼き菓子が、現在のコブラーへと発展していきました。「コブラー」という名前は1859年から記録に残っており、「木のボウル」を意味する古語"cobeler"に由来する可能性が示唆されています。

多様なバリエーション

コブラーは、地域や好みによって様々なバリエーションが存在します。

北アメリカ

カナダの沿海州やニューイングランド地方では、グランツ、パンダウディ、スランプといったコブラーの派生型が見られます。これらは、鉄鍋やフライパンで調理され、生地が煮込む際に発する「ブツブツ」という音（英語でgrunt）が名前の由来とされています。アメリカ合衆国では、アップルパンダウディ（アップルコブラーの崩れた皮をフィリングと混ぜ合わせたもの）、ベティ、バックル、ダンプ（ダンプケーキ）、グランプ、スランプ、ソンカーなど、多様な種類が存在します。特に、ノースカロライナ州特有のソンカーは、深皿で焼かれたアメリカ式コブラーの一種として知られています。南部アメリカでは、果物1種類をメインにしたコブラーが多く、ブラックベリー、ブルーベリー、ピーチなど、果物の名前で呼ばれることが一般的です。バニラアイスクリームを添えて楽しむことも多いようです。塩味のコブラーとしては、トマトコブラーがあり、サザントマトパイに似た味わいです。

ベティ

ベティ、またはブラウンベティと呼ばれるコブラーは、アメリカ植民地時代から伝わる古いレシピです。パン粉やパン片、砕いたグラハムクラッカーと果物（リンゴが一般的）を交互に層状に重ねて焼き上げるため、ブレッドプディングのような食感です。アメリカ中西部では、アップルベティやストロベリーベティは、アップルクランブルとほぼ同義語として用いられることもあります。

イギリスとコモンウェルス諸国

イギリスとコモンウェルス諸国では、スコーンを乗せたコブラーが一般的です。甘味、塩味の両方があり、甘いものにはリンゴ、ブラックベリー、ピーチなどが使われます。塩味のコブラーは、牛肉、子羊、羊肉などの肉類をキャセロールに入れ、スコーン生地の団子を乗せて焼きます。この場合、肉に火が通りやすいように、スコーン生地は器の縁に沿って並べることもあります。チーズやハーブ入りのスコーンを添えることもあります。第二次世界大戦中、コブラーとクランブルは、バターの使用量が少ないため、食糧省によって推奨された料理でした。

まとめ

コブラーは、その歴史、多様なバリエーション、そして地域性豊かな焼き菓子です。シンプルな材料で手軽に作れる一方、深い歴史と文化を背景に持つ、魅力的な料理と言えるでしょう。

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